平成19年9月13日(木)午後2時、高裁808号法廷で第11回口頭弁論が始まりました。
ニコンからは第5準備書面、乙証128〜130、第5証拠説明書の提出がありました。この乙証の中に、「過労死と企業の責任」(川人博著)が入っていました。原告代理人自体が著書の中で、労災でなかなか認定されないと述べている部分がある。つまりは勇士の事案は、労災認定されないと分かるから労災申請しなかったのであり、もともと認定されないような事案なのであると主張しています。
乙証は、他に電機連合の交替勤務に関する調査書もあり、各企業で実態調査をした厚い報告書でした。それを見ても原告の主張するような交替勤務での体調の崩し方はないという主張です。
アテストからは第8準備書面、原告からは第15準備書面、甲188(英文)、甲188の和訳、第17証拠説明書を提出しました。甲188は工場労働者の精神状態と交替制勤務の影響に関する書証です。
証拠調べが終わると、提出書面に関して代理人から口頭で説明するよう、裁判長から話しがありました。これがあるので傍聴席にも内容がとてもよく伝わります。傍聴人はあらかじめ書面に目を通すわけでもなく(原告は通していても毎回あやしい)、法律用語が飛び交うとひとたまりもありません。口頭弁論での説明は、原告側代理人も被告側代理人も分かりやすく言って下さったように思いました。早口でもなく素人の頭に収まるスピードだった、などと勝手に思いました。
(ニコン)
「適応障害」の心理的負荷の評価期間(ICD-10)は6カ月となっている。原告の考えは6カ月を超えており、通常の評価ではない。“電通事件”で1年を超える負荷があるのは、1年長時間労働が続いているものであり、本件とは違う。
クリーンルームについても辛いと言っているが、理由がない。勇士は平成10年10月に、交替勤務の夜勤がなくなり、クリーンルームで働いても元気だった。
原告は再三、“電通事件”を引き合いに出すが、本件とは著しく違うものである。電通の件は恒常的残業と健康状態悪化を上司が認識をしており、にもかかわらず何も対処をしなかったことが問われたものである。
原告は日本産業衛生学会の交替勤務に関する基準を「基本」としているが、同会基準は一般的な基準にはなっておらず、実際の産業界においても、原告が主張するような基準は採用されていない。厚生労働省の研究班中間報告(乙11)でも触れられていない。ニコンは厚労省の中間報告を遵守している。実際にアテストの者が勇士と会ってから死亡までの日数をみると、予見可能性も回避の可能性もない。
ニコン側証人(第8回口頭弁論。平成19年1月18日)が勇士の上司Hyの死を知らなかったのは、同人がニコン子会社「Ky」に出向した後のことだったからである。同人の自殺の原因は個人的な問題によるものである。
勇士は確かに平成10年秋に健康診断を受けている。健診書類は、アテストが紛失しただけである。
Jx氏は労働法等を専攻し厚生労働省の官僚として、労働行政に携わってきた。氏を「専門家」ではないとは非礼である。氏が訴訟記録を読んでいないのは、原判決の理論的組み立てが法的に疑問だったからであり、その見解を述べるのに記録を読む必要がなかったからである。
この事案は、本来、安全配慮義務違反と認定され得ない事案である。
(アテスト)
そもそも平成11年2月中旬頃のうつ病発症を否定する。原告は平成10年7月末にはアテストに予見可能性ありと言っているが、予見可能性はなかった。
本件の特殊性は、勇士が預金から支出しており平成11年1月末に兄に50万、2月上旬に母に20万を貸した。返却したというのも疑わしい。アテストは相当な負担があったものと主張する。
(原告)
※上記被告側の主張に対し、原告側は反論書面の準備がなくても口頭でも良いと言われていましたが、裁判の当日、第15準備書面として提出しました。
被告のICD-10の適応障害に関する記述の件について、6カ月とあるのは発症後の症状持続期間のことである。文章を見れば明確であり明らかな誤りである。判断指針を手がけた原田医師がその論文でも6カ月〜1年間を評価すると明確に述べている。水戸地裁の医師の例でも2年以上の期間で認定しており、厚労省は控訴していない。
日本産業衛生学会の理事には、大企業の関係者が就任しており、かつ戦前に作られた伝統と権威ある学会である。塵肺訴訟でも同会の基準を採用している。同会を無視する考えはまったく理解できない。
1991年ILOは深夜勤務の勧告を出している(甲110)。ニコンの職場のような1回の労働時間9:45、拘束時間11:00は論外である。加えて残業、シフトの頻繁な変更、クリーンルーム内作業と重なるのであり、原告の主張は正当である。
厚労省の中間報告書(乙11)は具体的数値に触れていない。ニコンはこの抽象性を利用して我田引水の主張をしているにすぎない。具体数値はILO、日本産業衛生学会を考慮するべきである。
“電通事件”の被告主張に反論する。健康悪化を確認してからでは遅い、健康を守る義務はその前からであるというのが調査官解説である。電通事件はたまたま上司が健康悪化を知っていたという状況であったのであり、判決は、上司の認知の存在を条件としてなされたのではない。この考え方は、当事件調査官解説(八木一洋氏法曹時報52巻9号349頁)に詳細に解説されている。
時折、裁判長が質問を入れながら口頭弁論は進みました。全て聞き終わった後で裁判長から話がありました。
「裁判の進行について。まだ積み残しの主張、立証等があるかもしれませんがそれは個々にまかせます。これからは判決書きの作成に入りたいと思います」
最後の言葉がじんわり身体中に広がって、大きな区切りを迎えたことを知りました。 |