第171回国会 本会議 第6号
平成二十一年二月二日(月曜日)
午前十時一分開議
・・・【中略】・・・
○本日の会議に付した案件
一、日程第一
一、裁判官訴追委員予備員辞任の件
一、裁判官訴追委員予備員等各種委員の選挙
・・・【中略】・・・
○議長(江田五月君) 市田忠義君。
〔市田忠義君登壇、拍手〕
○市田忠義君 日本共産党を代表して、麻生総理に質問をいたします。
今年、二〇〇九年は、年越し派遣村で明けました。トヨタやキヤノンを始め日本を代表する大企業から、仕事だけではなく住む場所まで奪われ、寒空にほうり出された人たちを救おうという取組でした。
今、全国各地に派遣村がつくられ、自治体の窓口には、派遣切り、期間社員切りに遭った労働者が住む場所と生活保護を求めて殺到しています。こんな事態は、終戦直後の混乱期を除いて、いまだかつて一度もなかったことであります。
業界団体の調査では、三月末までに職を失う人が製造業だけでも四十万人になると言われています。何の責任もない労働者を企業の一方的な都合で路頭に迷わせる、こんなことは人道上からいっても絶対に許されないと考えますが、総理はどう認識されていますか。
なぜこんな異常な事態が起きたのか。それは、働くルールの規制緩和、とりわけ一九九九年に労働者派遣を業種の限定なしに原則自由化したこと、さらに二〇〇四年には製造業にまで広げたからであります。
我が党は、そのいずれにも反対しました。これらは、働く人々の多様なニーズにこたえるためなどといった口実で、景気の調整弁として使い捨て労働を認めよという財界の強い要望にこたえたものであり、大企業の横暴と政治の責任が鋭く問われる問題であります。総理にその認識はおありですか。
労働法制の規制緩和は、雇用に責任を持つべき経営者のモラルを崩壊させました。自分の会社で正規の従業員と同じように働かせて莫大な利益を上げながら、いざとなると生身の人間をまるで物のようにほうり出して何の痛痒も感じなくさせたのであります。それは、日本経団連の御手洗会長が、自らが経営する大分キヤノンの派遣切り、請負切りの責任を問われて、キヤノンがやったのではない、請負会社、派遣会社が解雇したものだと平然と発言したことに端的に示されているとは思いませんか。
今政府が行うべきことの第一は、既に職を失った人々の救済です。全国に一時避難所を設置すること、再就職支援のための緊急小口支援を思い切って拡充すること、再就職に向けた緊急避難として、住居を失った人にも支給するなど、生活保護を柔軟に行うことであります。
第二は、これ以上の被害者を出さないことであります。
大量の人員整理には何の合理的根拠もありません。今、派遣切りなどを行っているのは、押しなべて大企業であります。資本金十億円以上の製造業の大企業が二〇〇三年から二〇〇七年までの間に新たにため込んだ内部留保は十八兆円、その累計は実に百二十兆円にも上る膨大なものであります。同じ期間に株主配当も二十一兆円。体力は十分にあります。首切りしないとつぶれる大企業など一つもないことは明らかではありませんか。総理は、単なる要請やお願いではなくて、財界、大企業に対して断固たる指導を行うべきであります。
私たちの調査でも、派遣切りに遭った多くの労働者が同じ職場、同じ仕事で三年以上働いています。労働者派遣法で定められている派遣期間の上限、三年を超えた労働者には、派遣先の企業は正社員になってもらうよう申入れをしなければなりません。それを避けるために、様々な脱法的手段を使って働かせてきたというのが実態であります。法を厳格に適用すれば、本来、既に正社員として雇用されていなければならない人たちばかりであります。こういう人を解雇することは、現行法に照らしても許されるものではありません。総理、いかがですか。
総理が現在の状態を危機と認識されているのなら、それにふさわしく、大企業による不当、不法な首切りを阻止するために全力を挙げるべきであります。そして、二度と同じようなことが起きないよう、労働者派遣法を抜本的に改正し、少なくとも一九九九年の原則自由化以前に戻すべきであります。
総理は、このことによって派遣労働者が職を失うかのようなことを言います。しかし、それは当たりません。現に働いている人を直接雇用にすれば済むことであります。むしろ、派遣労働者のままでいれば、常に派遣切りの不安にさらされるというのがこの間の実態ではありませんか。答弁を求めます。
・・・【以降、途中まで略】・・・
大企業応援から家計を応援する経済政策への転換を、そのことを指摘して質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(麻生太郎君) 市田議員の質問にお答えをいたします。
まず最初に、労働者の方々の離職に関する認識についてのお尋ねがあっております。
百年に一度と言われる経済危機を受けて非正規労働者の大量離職などが生じていることにつきましては、大変憂慮いたしております。人を大切にするのが日本的経営の良さでもありまして、こういう非常時こそ、企業は労働者の雇用と生活を守るよう最大限の努力をしていくべきだと、私も同じように考えます。
政府としては、先日成立をいたしました二次補正予算や二十一年度予算におきまして、派遣労働者、年長フリーターなどを正規雇用した企業に対する助成、雇用維持に努める企業に対する雇用調整助成金の拡充、雇用創出のため都道府県に過去最大四千億円の基金を創設することによる地域求職者などの雇用機会の創出、そして地方交付税の一兆円増額による雇用創出の促進など、これまでにない規模、内容の雇用対策を実施することといたしております。
労働者派遣法の規制緩和についてのお尋ねがありました。
これまでの労働者派遣法の改正は、厳しい雇用情勢の中で雇用の場を確保することや労働者の多様な働き方に対するニーズに対応することなどを目的として、労働者の保護に欠けることのないよう留意しつつ行われてきたものと認識をいたしております。しかしながら、今回の急激な雇用情勢の悪化は世界的な金融経済危機に端を発したものであり、これまでの改正時の想定をはるかに上回ったものとなっております。
したがって、労働者の雇用や生活の安定に向けて、政府としては、これまでにない規模、内容の雇用対策を講じるほか、現在国会に提出をしております労働者派遣法の見直しなど様々な取組を行っており、これらは必要なものだと考えております。
また、企業の経営者は、労働者の雇用の安定や生活の向上を図る社会的責任があると考えております。こういう非常時こそ、労働者の雇用の確保につきまして最大限の努力をしていただきたいものだと思っております。
職を失った方々の救済のための緊急措置についてのお尋ねがありました。
雇い止めなどにより住居を喪失した離職者に対し、昨年末より全国のハローワークにおいて雇用促進住宅への入居のあっせん、住宅・生活支援の資金融資の相談などの支援対策を実施いたしております。また、自治体レベルでも緊急小口貸付けなど離職者の状況に応じた支援を実施しております。
さらに、これらの支援を行ってもなお困窮する方々につきましては、住所のない場合であっても受給することができるようにするため、今後とも最後のセーフティーネットでもあります生活保護によって適切に支援していくことといたしております。
派遣切りについての指導に関するお尋ねがありました。
いわゆる派遣切りに伴う雇い止めや解雇が発生していることにつきましては、大変憂慮をいたしております。このため、労働契約法に関する啓発指導や労働者派遣法などに違反する事業主に対する指導監督を更に徹底してまいります。
なお、企業にとっての内部留保は、企業の存続や長期的な発展の可能性を確保するためのものでもあり、その活用については企業がそれぞれの状況に応じて最善の経営判断を下すべきものであると考えます。その上で、人を大切にするのが日本的経営の良さと思います。こういう非常時こそ、労働者の雇用と生活をしっかり守るよう最大限の努力をしていただきたいものだと考えております。
派遣先企業の直接雇用の申込義務についてのお尋ねがありました。
現行の労働者派遣法では、派遣先が最大三年の期間、期限を超えて派遣労働者を使用する場合、直接雇用を申し出る義務が生じることとなっております。
なお、現在継続審議となっている労働者派遣法の改正案におきましては、事実上の期間制限違反の事例というものを含め、違反派遣の場合には派遣先に対して労働者への労働契約の申込みを行うよう、行政が勧告できる制度を創設することといたしております。
なお、労働契約法では、期間の定めのある労働契約につきましては、やむを得ない理由がある場合でなければ期間満了前に労働者を解雇することができないこととされております。政府としては、こうした法令に基づいて啓発指導を行ってまいります。
労働者派遣法についてのお尋ねがありました。
これまでの労働者派遣法の改正は、厳しい雇用情勢の中で、雇用の場を確保することや労働者のいろいろな、多様な要求、ニーズ、働き方に対する思い、そういったものに対して、それに対応できることを目的として行われてきたものであります。結果として、雇用の確保につきましては一定の役割を果たしてきたものと認識をいたしております。
他方、今回の歴史的な厳しい経済状況などを踏まえれば、労働者の保護を強化する観点から、労働者派遣法の見直しが必要と考えております。そのため、日雇派遣を原則禁止するとともに、派遣元に対し登録型の派遣労働者の常用化に努めるよう義務を課す、違法派遣を行った派遣先に対しその労働者の雇用を勧告する制度を創設するなどの改正法案を提出しております。御存じのとおりであります。
なお、現在、登録型派遣は二百八十万人もの方々に利用されております。その中には自由度の高い派遣労働を望む方もおられます。これを禁止することは、かえって労働者の不利益になるという点も考えなければならぬところだと思っております。
・・・<以下省略>・・・
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