第171回国会 予算委員会 第23号
平成二十一年五月二十二日(金曜日)
午前十時一分開会
・・・【中略】・・・
本日の会議に付した案件
○参考人の出席要求に関する件
○平成二十一年度一般会計補正予算(第1号)(
内閣提出、衆議院送付)
○平成二十一年度特別会計補正予算(特第1号)
(内閣提出、衆議院送付)
○平成二十一年度政府関係機関補正予算(機第1
号)(内閣提出、衆議院送付)
○委員長(溝手顕正君) ただいまから予算委員会を開会いたします。参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
平成二十一年度補正予算三案審査のため、本日の委員会に野村證券株式会社金融経済研究所経済調査部長木内登英君、独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員小杉礼子君及び三菱UFJ証券株式会社参与景気循環研究所長嶋中雄二君を参考人として出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
・・・【中略】・・・
○参考人(小杉礼子君) ありがとうございます。
私からは、私は若い人たちが一人前になる過程の調査をずっとやってきました。学校在学中から職業人として自立していく過程というのをずっと追ってきた者です。その一研究者の目から見て現状と、それから今回の補正予算で組まれた政策がどんなふうに評価できるかということを、私の個人の意見ですけれども、申し述べさせていただきたいと思います。
現在の若者の状況、今、木内さんの方から不安の話が出ましたけど、若者こそ本当に不安に駆られています。特に、今就職活動に入った大学生の不安たるや大変なもので、三年生の早いうちからもう前のめり前のめりで、早く早く早く頑張らなきゃどうにかならないんじゃないかという不安に駆られています。この不安に対して、いや、大丈夫だと言ってあげられる政策が今一番大事なんじゃないかなというふうに思います。
今、その不安の要因というのを幾つか整理したのが私の資料の方の二枚目にも挙げました五つのポイントです。二〇〇三年の自立・挑戦プラン以来、日本の若者政策というのは進んできて、確かにフリーターの数が減るとか、いろんな政策効果を及ぼしてきているんですが、でも、根本的なところではまだいろんな問題があります。そこがここで一挙に大きくなっているのかなと思います。
まず一つが、たまたま今年二十二歳になってしまった、たまたま十八歳になってしまったというタイミングで生まれた人たちが、今回の新卒採用でひょっとしたらうまくいかないかもしれない。うまくいかなくなったらその後どうなるかというと、かつての例は示しているのは、ロスジェネとか年長フリーターとか言われる状態です。最初の状態でうまく就職できないと、フリーター、ニートに非常になりやすい。
日本の人の育成の仕組みといいますか、企業の育成の仕組みというのは、非常に内部、採用した人に対してはとてもうまい仕組みだと言われています。内部育成には非常にたけている。ただ、その分、逆に外から途中で入るのは入りにくいという仕組みになるので、最初でつまずくと、いつまでもそれが響きやすい。これが日本の雇用システムの良い面でもあるし、悪い面でもある、両面あるんだと思うんです。企業が人を育てるのがうまいということは、企業に入れなかった人は育ててもらえないということになるということになるわけです。
それからもう一つ、二番目が、生まれた家の家計状況が実はかなり左右しているんです。
子供の貧困というようなことが最近、阿部彩さんを中心に主張されていますけれども、私どもの調査の中でも、やっぱりどの段階までの学校を卒業したかということが後々の職業キャリアにかなり影響を及ぼしている。今の状態ですと、高校までで学校を離れた人にはかなり、特に高校中退は一番状態悪いんですが、安定的な仕事に就きにくい状態が加速していると思われます。そういう、たまたまどういう家計状態にあるかによって将来が左右される。そして、そのことがその後の本人の努力によって解消できる部分もあるんですが、解消されないところも残ってしまう。こういう状態があること。
それからもう一つ、三点目は、たまたまどの地域で生まれたかですね。
地域の経済格差というのが非常によく言われていますけれども、その生まれた地域にどれだけの元気な産業があるか、それによって実は本人の職業キャリアが決まってしまう。
地域間移動というのも、こういう状態になりますとある程度促進しなければならない面があると思うんですが、最近の大きな問題は、地域間移動というのは実は住居を移動しなきゃならないんですよね。若い段階で住居を移動する。会社が丸抱えで寮を持ったり、そういう会社がすべての住居の保障をするということがだんだんしにくくなった中で、そこで、今回の派遣切りの問題で住居を失う人がたくさん出てきたのは、実はあの派遣会社というのは、住居をセットで、地方の雇用機会の少ないところから雇用機会の多い製造業が盛んな地域に人を移動させる仕組みだった。つまり、若者の地域間移動を、住宅政策を、ある意味じゃ、日本の住宅が非常に、若者が個人でアパートを借りるには余りにも高いために、自分で就職を探しに行くことができない。
そういう大きな問題が、たまたまどこに生まれたか、いつ生まれたかによってかなり左右されてしまう、こういう状態があって、そのことがここしばらく皆さんによく知られるようになった、そのことが今の不安の大きな要因になっている、そう言えるんじゃないかと思います。
さらに、あと二つの点も大きいんですが、これは元々知られていたことですが、非正社員のままでは自立ができない、家族形成ができない、賃金水準が低いということです。
賃金水準が低いということと同時に、やっぱり今の住宅問題がかなりあるんじゃないかと思います。アパート代が高いから、賃金だけでは食べていけない。もしこれが、アパート代が非常に安い、若い人が入れるような公営住宅がもしあれば、百二十万でも食べていけるかもしれない、二百万以下でも食べていけるかもしれない、そこのところのセットが大事なんじゃないかというふうに思います。
それから、五点目に挙げましたのは、学校、最初のこととちょっとかぶるんですが、最初に失敗するとずっと後を引くということです。
特に、私どもの調査の中でも、学校中退とか、最初に内定取消しに遭ったりして就職できなかったということが後々まで響くということが分かっています。そうすると、例えば、そのときに就職できないから雇用が大変だというだけではなくて、学校を離れることで、彼らは人間関係もどんどん小さくなっていくわけですね。新しい職場に入れば、職場でいろんな人間関係ができて、どんどん発展していったはずの個人が、職場から切られてしまう、行き先を失ってしまう。周りのみんなはうまくやっているけど自分だけがうまくいかないという状態になると、友人関係もどんどん絶っていかなきゃならないような状態になってしまう、そういう孤立化が起こる。
今、ニート対策ということで、地域サポートステーションとか自立塾とかつくっていろいろやっていますけど、そこの状態を見てみますと、やっぱりそういう孤立化した若者たちが来ているんですよね。その孤立化のきっかけというのは、やっぱり学校の中退とか、そういう社会から何らかの形で、あるところで階段を外したことが後々まで響くということになっているんじゃないかと思います。
その次のページからは、一応、今話したことのエビデンス的なものなんですが、ちょっとまだ時間がありそうなのでちょっとだけしゃべらさせていただきますと、例えば最初のグラフは、これは大卒の求人倍率と大卒の無業率というのがどれだけ相関しているかを示したものです。
就職しないフリーター問題などというと若者の意識の問題だということでずっと対策が取られがちだったんですけれども、実はこうやって見ますと、景気が悪くて求人が少なくなる、求人が少なくなれば無業者が多くなると、非常にはっきりした関係があるんです。ということは、今年就職が厳しくなる中できちんと手を打っていかないと、また特定の若者たちが長い間苦しむような事態を生みかねないということです。
次のページにありますのが、これは学歴によってかなり違うぞ、キャリアが違うぞということを示したものです。これは東京都内で調べたものですが、大卒の男性だと斜め線の棒が高いですが、これは正社員の市場にずっといる人たちということです。それに対して、高卒の若者というのは若ければ若いほど不安定な仕事にずっといるというタイプが多くなってしまっている。それが年代が最近になるほどそうだという、学歴間格差が拡大するという状態を示しています。
次のページは女性で、女性ではもっとひどいです。女性の低学歴層の場合の就業機会というのが非常に限定されたものになっています。
ただ、それは地方によって違うのでというのがその次のグラフなんですが、これはまあ長野のある地域と北海道のある地域についての若者たちのキャリアを調べたものなんですけれども、北海道の方は赤い線が多くて、長野の方は黒い線が多い。つまり、これは二〇〇八年の初めに調べたもので今の環境の前の状態なんですが、特に東京であったような学歴間格差というのは地方に行くとちょっと小さい。小さい理由は、長野の場合には高校を卒業した人も安定的な仕事に就きやすい。これは背後にある製造業の問題です。学歴の相対的に低い人の多いのは製造業で、物を作る仕事というのはやっぱりそういう人たちを吸収しやすいし、そこでキャリアを築きやすいんですよね。
それに対して、北海道の札幌を中心にしたこの地方というのはそういう製造業基盤がなくて、サービス系、サービス業中心の地域、そういうところでは実は大学を卒業しても長い間非正社員のままであるという層が出てきている。これは実は大学の専門性とすごく関係があるんです。理系であるか文系であるか、人文社会科学系であるかで全然違っています。そういうその地域の産業と職業教育との関係というのは実はきちんと対応を取らないと、学校の中で勉強したことがある意味じゃ役に立たないということになりかねない。その辺のその兼ね合いが今までの日本では十分図られていなかったところがあるんじゃないかと思います。
そこで、こういう状況認識の下に、今回の経済対策によって期待ができることとして私が注目しましたのは、やはりセーフティーネットの政策が今回非常に今強く出てきているところです。これは大変大事なことなので、是非このセーフティーネット政策を、特に職業訓練、生活支援というのをセットにした形で考えているんだと、このことを若者たちにきちんと知ってもらう。ここでつまずいても、ここでつまずいたらもう一生駄目なんだではなくて、ここでつまずいてもこうすればいいんだ、ここでこうやってくればいいんだということがはっきり伝えられる必要がある。そういう意味では、ちょこちょことした政策ではなくて、どんと大きな政策で出してもらったというのはとても期待できる、これをどうやって知らせていくかも大事なことだと思います。
さらに、若者の場合には雇用保険受給の資格のない者が多いんですよね。まだ就職していなかったり、あるいは非常に短期の雇用しか経験していなかったり、早期に離職していたり、こういう人たちを対象にした施策として考えてくれていること、それから訓練期間中の生活費給付ということが盛り込まれていること、これは訓練を受けやすい環境が整ったと思います。かつ、その訓練も資格に結び付くような長期な訓練も盛り込まれるということなので、その辺は大変期待しています。
それから、特に就職活動が困難になるような人たちに対しての住宅・生活支援というのをセットにしている。これも大変重要なことで、住宅というのが先ほどから申しましているとおり、実は若者の生活をかなり圧迫している住宅費のことを考えると、ここはとっても大事だと思います。
そして、内定取消しということに対しての対策と、それから教育、雇用分野ではないんですけれども、教育分野についても非常にこうはっきり書かれていて、学校中退というのは実は本当に後々まで響きますので、経済的な理由による学校中退を防ぐということに焦点が置かれた、これも大事なことだと思います。
学卒でうまくいかなかった若者たちを大学がちゃんと、学校が後々までフォローするような、卒業生もフォローできるような相談体制をつくる。大学の、あるいは高校も含めて学校が後々まで面倒を見るような体制をつくれるような、そういう方向も盛り込まれているので、これも大変評価しているところです。
最後のページは、これは実行段階で更に、ここの予算の範囲に書いている中では十分よく分からなかったんですが、実行段階で更に工夫してほしいということは、まず職業訓練や就職支援というのを効果的に行うための仕組みというのを十分考えていただきたいということです。
私が今訓練として最も評価しているのはジョブ・カード制度なんですけれども、企業の中で公的に認められたスキームで訓練をして、それをきちんと評価するという制度。ただ、この制度は再チャレンジのときにできたという過程があって、これまで正社員経験のない人とか非常に特定の人を対象にするというような縛りがあったんですね。是非それを外して、緩めていただいて、これから新しい分野に挑戦する人はだれでも使える制度にしていくことが大事なんじゃないかと思います。
そうすると、ある意味じゃ特定の人しか受けられない制度ですとスティグマ、烙印になっちゃうんですよね。あんな仕組み、あんなと言っちゃなんですけれども、よっぽどうまくいかなかった人だけがやる仕組みだよねというふうになると、逆に企業の側から色眼鏡になってしまう。そういう色眼鏡にしないためには、やっぱりチャレンジしたい人はだれでもオーケーという仕組みにしていかなきゃいけないんじゃないかと。
それから、相談という過程、ジョブ・カードには必ずカウンセリングが入るんですけれども、訓練は訓練だけで単一ではなくて、間に相談を組み込んでいくということ。特に、訓練というと同じスキームをみんなにどんとやればいいということになるんですが、実は個々人というのはキャリアを持っていて、これまでのキャリアがあって、あるいは抱えているいろんな問題があって、その中で訓練を受けて次に旅立っていくわけで、その背景に抱えているものによってその訓練効果というのは違うんですよね。あるいは、そういうことを、事情をよく理解した上で支援してくれるという体制があると意欲度も変わってきます。そういう個人に対するケアというのがきちんとすること。それから、訓練の質の保証の仕組みをしっかり入れること。
それから、さらに、就職困難者の住居のことについては、住居問題というのは、今回の場合にはある一定時期についての住居ということを考えていますが、住居というのはずっと住んでいくものなんですね。そのある一定時期だけ保障されるのではなくてその後々までということは、つまり公営住宅などの安い、若者向けの安い住宅政策というのをきちんと雇用政策と結び付けていく必要があるんじゃないか。
そして、最後に窓口の連携、一本化。今回、雇用だけではなくていわゆる福祉の面、あるいは住宅の面と様々な面がこの中に問題が出てきているわけで、これを連動してやらなきゃならない。そのためには、ハローワークを入口にするばかりではなくて、福祉とか学校とか、あるいは事業主団体なども含めてこの政策についてきちんと知って、お互いの必要に応じてその政策の方に行った方がいいよと誘導できるような、そういう仕組みづくりが大事なんじゃないかと。特に、とりわけ学校中退者に対してきちんと対応するというのが大事なことだと思います。
以上です。
・・・【中略】・・・
○山下芳生君 日本共産党の山下芳生です。
・・・【以降、途中まで略】・・・
○山下芳生君 小杉参考人に伺います。
若者こそ不安に駆られているという御意見に同感であります。私どもの党のホームページにも「若者に仕事を」というコーナーがありまして、そこにはたくさん深刻なメールが寄せられます。読みますと、努力しても仕事がない、生活ができないことへの言いようのない不安感、絶望感、これが社会への不信へとつながっていると感じております。
参考人はその不安要因を五つ整理いただきまして、大変参考になりました。資料、先ほど聞きながら、若者の中で非正規雇用が〇一年と〇六年比べてみてもうぐんと増えている、特に高校卒の男性、女性は非常にこのわずかの五年間で非正規化が進んでいるということに改めて驚いているわけですけれども、この若者たちが昨年の秋以降、大量に派遣切り、非正規切りで仕事も住まいも失っているということも言えると思います。非正規のままでは自立、家族形成ができない低賃金に置かれるという御指摘がありましたけれども、それに加えて、今、物のように簡単に使い捨てられる超不安定性というものも出てきているんじゃないかと思います。
こうした若者の中での非正規雇用の増大について小杉参考人はどう感じておられるのか、また社会としてどう対応すべきとお考えになっているのか、伺いたいと思います。
○参考人(小杉礼子君) 全員を正規の社会にすることはできないと思っています。人生の一時期、一時的な働き方をするというのは、それは御本人のキャリアにとってもマイナスばかりではない、最初から正社員で一社だけという生き方だけがいい生き方ではないと思います。問題はやはり、身分のようにそこに固定されてしまうことが問題で、そこから次に移れるステップが見えること、まずそれが大事だと思います。第二番目には非正規で働くこと、有期限の雇用あるいは短時間の雇用というような働き方、これを正当に評価できるような仕組みにしていかなければならない。やっぱり身分的な感じが非常に強くて、正規と非正規の間の行き来ができないという状態がひどく問題だというふうに思います。そこを解消していくことが不安を解消するためのとても大きなポイントだというふうに思っております。
○山下芳生君 同時に私は、〇一年と〇六年の間に労働者派遣法の規制緩和がありました。製造業に解禁されたのが〇四年ですから、そこに今大きな非正規切りということの直接の原因があると思いますが、これをこのまま放置しておいて、今先生がおっしゃったような非正規から正規に移れるような可能性というのが生まれてくるんだろうかということを心配するんですけれども、労働政策と今おっしゃった先生の目指すべきありようとの関係はどう考えたらいいんでしょうか。
○参考人(小杉礼子君) 労働政策の中でも、例えばパート法の改正などで正規と非正規の間のギャップをなくそうという、そういう方向性は見えていると思います。派遣法については、派遣そのものは、やっぱり社会の変化の中で派遣という働き方も一定程度必要な働き方だというふうに私自身は認識しております。
ただ、その制度の仕組みとして、派遣という働き方はメリットは何かというと、本当に必要なときに必要なところに行ける、移せることなんですね。つまり、社会の構造転換が大きく進んでいるときには、この派遣の方たちこそが今これから必要なところに移っていけるようにしなきゃならない。そこで大事なのは、私は、派遣の人たちこそ能力開発もきちんとできる、新しい社会に見合った、新しい能力を身に付けやすい仕組みをつくらなきゃならないと思うんです。私自身は、フランスの派遣法にあるような、法律自体の中に派遣の人こそ能力開発ができる仕組みというのを組み込むことの方が大事だというふうに思っています。
○山下芳生君 派遣をもし前提にするならば、私は、派遣先の労働者との差が余りにも大き過ぎると、均等待遇に近づけるということなしに派遣を前提にすることはできないと思いますが、いかがでしょうか。
○参考人(小杉礼子君) それはもちろん賛成です。均等ということがお互いに大事なことだというふうに思います。
○山下芳生君 終わります。ありがとうございました。
・・・<以下省略>・・・
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