第19号 平成21年2月24日(火曜日)
平成二十一年二月二十四日(火曜日)
午前九時三十分開議
・・・【中略】・・・
本日の会議に付した案件
政府参考人出頭要求に関する件
平成二十一年度一般会計予算
平成二十一年度特別会計予算
平成二十一年度政府関係機関予算
・・・【中略】・・・
○宇都宮参考人 おはようございます。こういう意見を述べる機会をつくっていただきまして、大変ありがとうございます。感謝申し上げます。
私の意見陳述の要旨は資料として配付していただいていますので、そちらの方も目を通していただければと思います。
私は、昨年末からことしの初めにかけての年越し派遣村の活動に参加しております。一応、私、名誉村長ということで、大変名誉な役割を果たさせてもらいました。
派遣村には五百五人の村民が入村しましたけれども、派遣切りで仕事を失って、社宅を追い出されて野宿を余儀なくされた労働者が多く派遣村に入っております。中には、茨城とか静岡から歩いて派遣村にたどり着いたというような人もいます。それから、失業を苦に自殺を図りましたけれども警察官に保護されて、それで警察官同行で派遣村に入ってきた人もいます。中には、さらに、ネットカフェとか野宿で体調を壊しまして、救急車で搬送された人も出ています。
こういう五百五人の派遣村の村民に対して、ボランティアとして参加された方は千六百九十二人になります。派遣村村民の三倍近くのボランティアが全国から参加しておりまして、中には遠くから参加された高校生とか大学生もいましたので、私は、こういう人たちの活動を見て、日本も捨てたものじゃないというふうに感じたところです。それから、全国から多くのカンパや食料、衣料なんかの支援物資も寄せられております。
こういうボランティアの支援、人の温かさに触れて、一回は自殺を考えましたけれども、もう一回生きてみようというふうに考えた村民もたくさんいました。それから、これから生活を再建できたら、自分も困った人を助けるボランティア活動に参加したいというような村民もたくさんいました。そういう活動に参加して、私自身も本当にやりがいを感じましたし、派遣村には、日本の中で今失われかけている思いやりとか助け合いとか人々の連帯が存在していたと思っております。
それで、御承知のように、派遣村の入村者が予想を超えてふえましたので、一月二日からは厚労省の講堂を開放していただきました。それから、一月五日からは都内の公共施設の四カ所を利用できるようになりまして、そこで就労相談とか生活保護の相談、それから緊急小口貸し付けの相談などが行われております。
それで、最終的には、派遣村の村民三百人近くに対して、短期間のうちに生活保護の開始決定がなされております。この生活保護に関しましては、野宿者のように住民票がない、あるいは六十五歳以下の稼働年齢にある人は、申請をしても申請すらなかなか受け付けてもらえないで追い返される、こういうのを私たちは水際作戦と呼んでいますけれども、水際作戦が行われることが多かったんですけれども、短期間のうちに生活保護の開始決定がなされております。この開始決定によりまして、アパートを借りて住まいを確保して、今、ハローワーク等に通いながら、生活の自立への闘いを進めております。
また、派遣村の村民に対しましては、社会福祉協議会から一万円から五万円の緊急小口資金の貸し付けも行われております。生活保護申請者に対しては一万円、それから生活保護の申請をしていない村民に対しては五万円の貸し付けが行われたわけですけれども、大体、村に入ってくるときに、村民の多くの手持ち資金が数百円、数十円、あるいは三日間何も食事をしていないというような方が多かったので、ハローワークに通うにも交通費がないわけですね。この一万円から五万円の貸し付けというのは大変感謝されております。
ところが、こういう制度についても、実は知らなかった方が多いんですね。生活福祉資金貸し付けの一部なんですけれども、こういうセーフティーネット貸し付けの制度については、広く広報して、利用しやすい制度にする必要があるかと思います。
それから、こういう取り組みができたのも、国や東京都、それから関係諸機関、あるいは国会議員の先生方の働きかけのおかげだと思っております。改めて深く感謝申し上げる次第です。
次に、派遣村の取り組みからわかってきたことですけれども、やはり、派遣村に集まった方は、派遣切りをされて、寮とか社宅を追い出されて、いきなり野宿をせざるを得ない、そういう方がたくさんいました。この派遣村の実態を見て、我が国の労働者派遣制度の問題点が浮き彫りになったんじゃないかと思います。
もともと、労働者派遣制度の導入というのは、当初は、多様な働き方を求める労働者のニーズにこたえるというような、そういう美名のもとに導入された制度でありましたけれども、派遣労働者の方の権利は全く保護されていない。実態はどうだったかということは、企業の利益の追求のために、労働コストの削減と手軽な雇用調整弁として簡単に労働者を首切る、そういう制度であったのではないか、極めて残酷な、冷酷な制度であると痛感しております。そして、こういう派遣切り被害の実態と派遣労働者の権利保護を考えた場合は、労働者派遣法の抜本的な改正が今考えられるべきだと考えております。
基本的には、雇用というのは直接雇用それから期限の定めのない雇用を大原則とすべきであって、有期雇用を含む非正規雇用というのは、合理的理由のあるごく例外的な場合にのみ許されるべきだと考えております。戦後、職業安定法というのは、こういう人材派遣業、人材派遣してピンはねする、そういう商売を禁止するという原則に立った運用がなされておりましたけれども、労働者派遣法の導入でこの例外が崩れていったわけです。
それで、労働者派遣法の内容としては、以下の点を検討すべきだろうと考えております。一つは、派遣対象業種を専門的なもの、臨時的なもの、一時的なものに限定して、専門的とは言えない製造業派遣は禁止する。それから、非人間的な労働形態である日雇い派遣は直ちに禁止する。それから、常に失業の不安を抱え、不安定な雇用となる登録型派遣を禁止する。違法派遣、期間経過後の派遣、偽装請負については、派遣先が直接雇用したものとみなす、みなし規定を設ける。派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇の原則を法律で規定する。派遣元会社が取得するマージン率の上限規制を行う。グループ会社内での労働者派遣、専ら派遣を禁止する。派遣労働者の組合が派遣先会社と団体交渉をできる規定を設ける。派遣契約打ち切りの際の住宅確保や生活保障、再就職支援などについては、派遣元会社と派遣先会社に共同責任を負わせる。こういう規定が検討されるべきだろうというふうに考えております。
それから、年越し派遣村は、派遣切り被害の実態と同時に、日本の社会にないと思われてきた貧困を目に見える形で日本社会に突きつけたことで、大きな衝撃を与えたと思っております。どちらかといえば、日本の社会はこれまで一億総中流で、そういう社会が定着したというふうに思われてきたと思いますけれども、我々は、数年前にこの貧困の問題に目をつけまして反貧困ネットワークを立ち上げて、貧困当事者の支援、あるいは支援グループとのネットワークをつくって実践を積み重ねてまいりましたけれども、どんどん日本に貧困が広がっている。
貧困というのは、人間らしい生活がない状態、できない状態のことを貧困と我々は言っているわけです。これまで政治の世界ではよく格差の問題が議論されてきたかと思いますけれども、格差の議論をしていきますと、どうしても、格差はあっていいのか悪いのか、そういう議論になりがちだと思います。日本社会全体が底上げをする中で、富裕層がさらに富裕になっていけば格差は開くことがありますけれども、そういう場合の格差の拡大というのはいいのかどうかという議論になると思いますけれども、そもそも貧困というのはそういう状態が社会的に是認、容認できない状態だと思いますので、この貧困の実態にもう少し目を向けていただけたらと思います。
欧米先進国は、貧困の実態調査を政府が行っております。また、政党も、貧困をどう克服するかということを大きな政治課題にしておりますので、そういう面でもぜひ国会議員の先生方は、こういう貧困問題についての検証、検討、それから貧困の削減をどうすべきかということを検討していただけたらと思います。
御承知のように、日本はもう既にアメリカに次ぐ貧困大国になっています。OECDの調査によりますと、その国の平均的な世帯所得の半分以下でしかない人の比率を示す相対的貧困率は、二〇〇六年の七月二十日に発表した報告書によりますと、日本は、十七カ国中アメリカに次いで二番目に高くなっております。
それで、こういう貧困問題を解決するためには、私としては、当面、ワーキングプア対策の強化と、生活保護制度を初めとするセーフティーネットの強化が求められていると思っております。
ワーキングプア対策の強化としては、最低賃金の大幅引き上げ、それから、非正規労働者と正規労働者の均等待遇、労働者派遣法の抜本改正、これは先ほどお話ししたとおりです、それから雇用保険制度の改善、効率的な職業訓練、職業教育制度の確立、こういうことが求められているかと思います。
それから、セーフティーネットの強化、これは生活保護制度の充実等が求められていると思います。結局、派遣切りされた労働者で寮とか社宅を追い出されて野宿を余儀なくされている人を救ったのは何なのか。生活保護制度しかないんですね、今、日本の国には。この生活保護制度がなかなか利用しづらい制度になっています。先ほどお話ししました水際作戦が行われているわけです。象徴的なのは、二〇〇七年、福岡の北九州市で、おにぎりが食べたいと言って餓死した人がいます。こういう餓死者が出るような運用がなされているということですね。したがって、こういう生活保護制度をもっと利用しやすく、さらにそこをステップにして自立しやすいような制度に変えていく必要があるかと思います。
当然のことですが、この間政府が進めてきた生活保護に関する老齢加算や母子加算の削減、廃止は撤回すべきですし、それから、二〇〇六年の骨太方針で決められている社会保障費年二千二百億円の削減方針も撤回する必要があると考えております。
それから、セーフティーネット貸し付けの充実については、先ほどお話ししましたけれども、生活福祉資金貸し付けの中の緊急小口資金貸し付け、これは非常に感謝されております。こういう制度を充実していくということが重要かと思っています。
特に、二〇〇六年には貸金業法の改正が行われまして、厳しく高利を規制するようになりましたので、政府は今、多重債務者対策本部をつくって多重債務者の救済をやっていますけれども、そこでもセーフティーネット貸し付けの充実ということがうたわれております。
こういう観点から、社会福祉協議会が進めている生活福祉資金貸付制度とか、自治体による母子寡婦福祉貸付金制度とか、労働金庫による自治体提携社会福祉資金貸付制度などを充実する必要があるかと思っております。
それと、こういう制度があるんですけれども、実際はほとんど知らないんですね、派遣切りされた人が。こういう制度があることすら知らない人が多かったので、もっと広報を徹底する必要があるかと思っています。
それから、公営低家賃住宅の大量供給が必要かと思っております。特に、住む家がないわけですね。いきなり野宿になってしまう。住む家としたら、当初貯金がある間はネットカフェで寝泊まりするしかない。住宅の貧困というのは深刻な状態にあるかと思っております。
私は、ほかの事件でも担当していますけれども、最近、低所得者層を食い物にする、敷金、礼金なしをうたい文句にした悪質なゼロゼロ物件業者や、それから、家賃保証会社による追い出し屋被害が多発するようになっています。これは、国の住宅政策の貧困のあらわれだろうと思っております。だから、ハウジングプア対策を強化する必要があるかと思っております。
それから、高等教育の無償化が必要だろうと思っています。貧困家庭で育つ子供がまた貧困になっております。今、日本は義務教育までは無償化されていますけれども、中学を卒業して働けるところというのは限られているわけですね。そういう人たちが高校とか大学に行こうと思ってもなかなか行けない状態になりつつあります。貧しい家庭に育った子供が大学に行きたいと思ったら行けるような制度をつくっていかないと、貧困が連鎖することになりますね。この辺も十分考えていただけたらと思います。
それから、当面の派遣切り対策の強化の問題ですけれども、労働者派遣法の抜本改正を待っていては、現在進行している派遣切りの問題に対応することはできません。厚労省が発表したところによりますと、三月末までに十二万四千八百人の非正規労働者が職を失う、その三分の二が製造業で働く派遣労働者であると言われています。また、業界団体の試算では、製造業で働く派遣や請負労働者の失業は、三月末までに四十万人に達すると言われております。こういう派遣切り対策を早急に実施する必要があるかと思っております。
まず、違法、不当な派遣切りはやめさせるよう、政府は企業を強く指導する必要があるかと思います。仮にそういう違法、不当な派遣切りが強行された場合は、派遣元企業だけでなく、派遣先企業にも連帯責任を負わせる、こういうことを含めて企業を指導する必要があるかと思います。
それから、派遣切りに伴って、労働者が居住していた社員寮などの住居から退去させることのないように、企業に対して厳しく指導する必要があるかと思っております。
それから、派遣切りを行っている企業に社会的責任を果たさせる必要があるかと思っております。大量の派遣切りを進めるトヨタ自動車やキヤノンなど日本を代表する大手製造業者十六社の二〇〇八年九月末の内部留保合計額は、景気回復前の二〇〇二年三月末から倍増し、約三十三兆六千億円に上っているということです。このような企業に社会的責任を果たさせる必要があるかと思います。
まずは、派遣切りを行う前に、企業としては経営努力をすべきかと思います。役員報酬、給与の額の減額、返上、内部留保の放出、他企業への就職あっせんなどを行うことはもちろん、非正規労働者生活・就労支援基金を設立すべきだと思っております。
それから、全国にシェルターをぜひ増開設していただきたいと思います。そこで、就労とか生活、住宅、緊急貸し付け、借金の問題等について、責任を持って処理できる諸機関が相談できるような体制をつくる必要があるかと思っております。
なお、定額給付金に関しましては、富裕層も含む全国民に給付する方針を改めて、このような派遣切り対策や生活困窮者、貧困者の生活支援、セーフティーネットの強化等に重点的に充てるなど、その活用方法の再検討をしていただければと思います。
二〇〇六年の骨太方針で、今、毎年二千二百億円の社会保障費を削減する方針が立てられているわけですけれども、二兆円というのはこの二千二百億円の九年分に当たります。こういうこともぜひ検討していただければと思います。
以上です。ありがとうございました。(拍手)
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