衆議院・参議院会議録情報 抜粋 |
衆議院ホームページの会議録から一部抜粋したものを、こちらのホームページに転記致しました。 |
第2号 平成19年2月22日(木曜日) 平成十九年二月二十二日(木曜日) 午前九時開議 ・・・【中略】・・・
(可児商工会議所会頭) 日比野良彦君 公述人 (キヤノンユニオン・宇都宮支部 支部長) 大野 秀之君 公述人 (東京大学医学部附属病院放射線科助教授・緩和ケア診療部長) 中川 恵一君 公述人 (政治評論家) 森田 実君 予算委員会専門員 清土 恒雄君 ――――――――――――― 本日の公聴会で意見を聞いた案件 平成十九年度一般会計予算 平成十九年度特別会計予算 平成十九年度政府関係機関予算 ――――◇――――― ○金子委員長 これより会議を開きます。 ・・・【中略】・・・ 次に、大野公述人にお願いします。 ○大野公述人 労働組合キヤノンユニオン・宇都宮支部支部長大野秀之と申します。 私は、栃木県宇都宮市にあるキヤノン光学機器事業所で請負労働者として働いています。本日は、議員の皆様の前で気持ちを伝えられる機会を与えてくださったことに、とても感謝しております。 現場で働く請負や派遣、パート労働者を代表する思いでこの場に参りました。非正社員で働く現状を率直にお伝えできればと思います。特に、偽装請負問題や格差の問題、経団連などが要求している労働者派遣法改正要求について私たちがどう感じているか、お話しさせていただきます。新年度予算に、正しい格差是正に向け、検討していただければと思います。 私の働く工場は、JR宇都宮駅から車で十五分、工業団地内に所在し、周辺にはホンダ、ミツトヨ、カルビー、松下電器、日本たばこなど非常に多くの工場が存在しているため、宇都宮の求人募集は自然と、派遣、請負など非正社員が多くなっています。キヤノンは、その中でも大きな敷地を保有し、従業員は八千人、そのうち半分の四千人が請負や派遣社員であると言われています。また、全国のキヤノングループには、二万人を超える請負、派遣労働者がいます。 その中で私は、光学機器事業所にて、ステッパー、いわゆる半導体露光装置という機械の核となる部分に搭載される特殊なレンズの研磨、測定工程を担当しています。この職場は、非正社員とキヤノン正社員とともに協力し合って、十年前に立ち上げた部署です。 ステッパーとは、あらゆる電子機器に搭載されるICチップに回路を焼きつける機械で、世界で三社しか製造する技術がないと言われています。人間がつくることができる最も高精度な機械であると言われ、大変高額で、一台数億円から数十億円するそうです。 その技術の核となっている特殊なレンズは、精度誤差はナノメートル単位で、百万分の一ミリ前後。一ナノメートルとは、一メートルを地球の大きさだとすれば、ビー玉程度の大きさに当たります。そのため、誤差をそこまで縮める技術や熟練した技能が必要となります。キヤノンが持つレンズ精度は世界最高レベルの精度と聞いています。 生産工程ごとに加工、測定を何度も繰り返し、満足する規格になるまでは約三日から二週間ほどかかるものもあります。指示されたとおりに加工を続けても簡単にでき上がる製品ではなく、そのため、開発を担当する正社員との連携を要し、請負で製造するには最も不向きな製品です。そのため、職場内には正社員が常駐し、請負契約ではやってはいけない正社員からの直接指揮命令を受ける、いわゆる偽装請負の状態で働いていました。 現場で働く労働者は二十代前半から四十歳、勤続年数は数カ月から十年と、長期間働いている者も多数いますが、皆、三カ月から六カ月の短い契約期間を繰り返し更新して、長年働いていました。 勤務は三勤三休、連続操業で、三百六十五日二十四時間、休みなく稼働するためのシフトが定められています。昼勤務は、朝八時から夜八時三十分で、三日働き、三日休み、そして夜勤務は、夜の八時二十分から朝八時十分まで三日働くといったシフトを繰り返し、勤務時間は十一時間、立ちっ放しでの作業です。不規則な生活になりがちで、体調を崩す者も少なくありません。 賃金は月給制度ですが、昇給制度は一切なく、何年働いても賃金は上がりません。年々、新しく入社する人の賃金額は下がってきています。昨年入社した人は月給二十二万五千円で働いており、年収にすると二百七十万円で、ボーナスはなく、退職金制度もありません。景気回復傾向と言われているものの、私たちには全くそのような実感はなく、むしろ、請負、派遣労働者の待遇は日に日に悪くなっているのが現状です。 有給休暇もありますが、有休の使用は月二日間といった制限を受けており、三日以上有休を使用した場合、欠勤扱いにされていました。また、以前は五つの請負会社が入りまじって働いていたのですが、同じ職場で同じ仕事をする請負労働者間でも賃金格差があり、有休が全く付与されない労働者もいました。 昨年七月、朝日新聞に、キヤノン大分工場の偽装請負問題が報道されました。キヤノンは外部要員適正化委員会を設置し、請負や派遣労働者を正社員化する方針を決定したという報道もされ、長年非正社員で働いてきた私たちにとっては、キヤノンがそうした方針を決めたことをとてもうれしく思いました。 しかし、喜びもつかの間、請負会社から突然、五月に派遣契約から請負契約に変更されたばかりの契約を、再度派遣契約に戻すと通告されました。会社側の詳しい説明は一切なく、請負から派遣、そして請負、そしてまた派遣契約にと、ころころと契約形態を変えられることに疑問を抱き、個人加盟できる労働組合、東京ユニオンに相談しました。 そして、組合からのアドバイスもあり、まず、職場の正社員の方に相談をしてみました。とてもやりがいがある仕事なので正社員になってずっとこの仕事を続けたい、非正社員のままでは将来の生活設計が立たない、新しく入社する人もどんどん退社してしまい、レンズ製造に影響が出ていると伝えました。 正社員の方は私たちの話をちゃんと聞いてくれて、うれしく思いました。でも、目先の心配はあるだろうけれども、まずは新製品の立ち上げを何とかやってほしいという本音を聞き、正社員化に対する具体的な答えはありませんでした。キヤノンは自分たちの気持ちをわかってくれない、どうしたらいいかと考えるようになりました。もっと上の人と話せないか、そう思うようになりました。 そんなところに、十年勤務している職場の仲間が退職する意思があることを聞きました。理由は、キヤノンで中途採用をしている、友人が採用されるらしい、それなら自分も受けようと思う、職場に愛着はあるが、正社員じゃないと将来が不安という理由でした。求人広告には、キヤノンで働いている派遣、請負社員は正社員の採用試験を受けられないと明記されており、それは社内で働く非正社員の常識になっています。 そんな話を耳にし、また、正社員化に向けた動きや、必ず正社員になれるという保証もなく、さらに請負から派遣契約に戻すと通告され、さんざん悩んだあげく、自分たちが長い時間をかけ築いてきた仕事に対する誇り、そして職場の仲間との友情を失わないためにも、労働組合を結成し、キヤノン上層部の人たちに話を聞いてもらおうと決め、七人で労働組合東京ユニオンに加盟しました。 その後、昨年十月十八日、大田区下丸子のキヤノン本社に正社員化を求める団体交渉の申し入れ書を提出しました。正社員になってもっといい物づくりをしたいという自分たちの気持ちをキヤノンは酌んでくれる会社だと思い、勇気を振り絞り、覚悟を決めて申し入れをしました。しかし、残念ながらキヤノンは、請負会社と雇用契約を結んでいる私たちとキヤノンの間には使用者性がなく、団体交渉に応じる義務はないと主張し、話し合いも拒否してきました。また、偽装請負についても、そういう事実は認識していないと完全否定されました。 偽装請負があったかなかったかということはともかく、勤続七年、中には十年という長い年月にわたり日々切磋琢磨して働いてきた私たちと話し合いの場さえつくってくれないことは、物すごくショックでした。まるで私たちの存在そのものを否定されたような悲しい気持ちになりました。 キヤノンは現在も、私たちが申し入れている団体交渉の申し入れを拒否しており、悲しみも怒りも感じています。それでも私たちは、キヤノンという会社が好きですし、だからこそこの会社で今後も働いていきたいと思っています。キヤノンが話し合いに応じてくれることを信じています。 一方、私たちは、栃木労働局に偽装請負の申告書も提出しています。申告の理由は、偽装請負で長期間働いています、派遣法を適用して正社員にするようにキヤノンに是正指導をしてくださいというものです。当然、こうした申告をすることでキヤノンに解雇されることも想定しました。言ってみれば、自分の命をかけた申告でした。そうまでしても、栃木労働局には、私たち労働者を救ってほしいという気持ちを、私たちが本当に苦しんでいること、職場が危機的状況だったことを伝えたかったのです。 申告翌日から、正社員が職場から机ごと移動するなどして、さも請負契約が成立していたかのように職場を変更し始めました。申告してから早くも四カ月が経過しましたが、いまだに労働局から指導が出ていません。なぜここまで時間がかかっているのか、相手がキヤノンだからなのかなどと考え、不安な気持ちで日々過ごしています。また、職場には新たに未経験の正社員が大量に配属されました。自分たちの首を切るための準備をしているようにも感じてしまいます。 いまだに指導が出ていないことも不安ですが、偽装請負を行っていた企業に労働局がどのような指導を出しているのかも調べたところ、雇用の確保を守った上で正しい契約に是正するようにということがわかりました。こうした指導は、厚生労働省が統一の見解を示しているとの話も聞いています。また、正しい契約に是正するようにということは、職場を改善して請負が適正に行われているのであれば、請負契約が継続されますし、請負での作業が無理ならば、請負から派遣に変更されるだけの話ということになってしまいます。 製造業の派遣は、今月末までは一年間の期間制限があり、一年を超えて派遣労働者を使用する場合、派遣先企業には、派遣労働者に対して直接雇用の申し込み義務が課せられています。ところが、偽装請負の場合、発注会社と受注会社間で請負契約が結ばれていたために、就労実態が労働者派遣であるにもかかわらず、一年以上偽装請負状態で働かされた労働者にこの直接雇用の申し込み義務が適用されないというのであれば、絶望的な気持ちになってしまいますし、到底納得できるものではありません。 偽装請負は今社会問題化していますが、こんなことがまかり通るのであれば、一生懸命働いてきた労働者ばかりが損をして、安いコストで労働者をこき使ってきた会社だけが得をしてしまいます。ぜひ、厚生労働省、そして各都道府県の労働局には、偽装請負で働かされた労働者に労働者派遣法を適用して、企業が直接雇用するようにというような厳正な指導をしていただきますよう強くお願い申し上げます。そうしていただきませんと、労働者の真の救済にならないからです。 一九八六年に施行された労働者派遣法は、法改正のたびに規制が緩和され、対象業務が拡大し、製造業の派遣まで認められるようになってしまいました。そのため、企業は次々と派遣労働者を投入し、先ほど私の職場の実態を報告した際に触れたとおり、低賃金でいつでも首を切れるように、一カ月から三カ月という細切れの契約を労働者と結び交わせています。何年働いてもボーナスや退職金も支給されず、交通費さえ出ない派遣、請負労働者がほとんどです。 このような劣悪な労働条件で働く請負や派遣労働者のとりでとなるのが、さきに申し上げた派遣先の直接雇用申し込み義務や派遣期間の制限です。こうした法律があることによって、少しずつですが、幾つかの企業が派遣や請負から正社員登用するケースが出てきており、そうした報道を見るにつけ、私たち非正社員はとても希望がわいてくるのです。 しかし、残念なことに、経団連の御手洗会長は、キヤノンの会長でもあるわけですが、この直接雇用の申し込み義務、そして派遣期間制限の撤廃を要求しています。御手洗会長は、期間制限をなくすことが派遣労働者の雇用安定につながるという趣旨を言われているようですが、私たちには、いつまでも、使い勝手がよく、派遣労働者のまま低賃金で、派遣先企業が何らの雇用責任も負わず労働者を使用させろと、まるで奴隷のように働けと言っているようにも聞こえてしまいます。 私たち請負、派遣労働者は生身の人間です。正社員と同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金をもらいたい。安心して子供を産みたい。子供に十分な教育を授けたい。育ててくれた親の面倒を見たい。そして、自分自身も、社会に貢献しながら幸せな老後を送りたい、そんな生活をしたいです。 こうした話をすると、そんなに非正社員が嫌ならば正社員になればいいと簡単に言う人もいますが、現実はそんなに甘くはありません。私の年齢は三十二歳ですが、十年前は就職氷河期真っただ中で、どの企業も正社員採用には極めて消極的でしたし、また、派遣、請負という雇用形態が多い北関東という地域性などもあり、正社員になりたくてもなれず、やむを得ず非正社員という雇用形態を選択せざるを得なかったというのが現実でした。 私たちのように、一度非正社員の道に入り込んでしまうと正社員の道を歩むのがとても困難であるということを、どうか知ってください。そのためには、派遣、請負、パートなど非正社員の長期的な雇用の安定の確保や正社員登用制度、正社員との均等待遇など、具体的な待遇改善につながる法的整備をしていただきたいと切に願います。そうすることが格差社会の解消につながると信じています。 ちょっとはみ出してしまいましたが、御清聴ありがとうございました。(拍手) ・・・【中略】・・・ ○金子委員長 これより公述人に対する質疑を行います。 ・・・【中略】・・・ ○ 枝野委員 民主党の枝野でございます。 四人の公述人の皆さんには、お忙しい中をおいでいただき、貴重な御意見をありがとうございました。 私からは、まず、大野公述人にお尋ねをさせていただきたいと思います。 現場の実態を大変切実にお話しいただいて、ありがとうございました。派遣とか請負とか、これが特に物づくりの現場で行われているということについて、私自身も、キヤノンの宇都宮での事例をいろいろと勉強させていただくまで若干誤解をしていたのかな、私だけの誤解でなければいいと思うのですが。 先ほどの話を伺うと、大野さんのなさっているお仕事というのは、ステッパーというまさに世界に冠たる日本の技術の製品、その一番中核になる部分の、しかも、ちょっと新しい人に入ってもらって、朝来てもらって、では十時からできますかというような仕事では全くない、まさに高度熟練技術を要する、しかも製品の中核をなすような、こういうお仕事ではないかというふうに受けとめました。 どうしても、正規雇用、非正規雇用とかという言葉のイメージで、何か中心部分は正社員の方がなさっていて、そうでない方は補助的なところをしているんじゃないかというイメージが若干世の中にあるのではないかというふうに思うのですが、どうも実態は違う。まさに物づくりの中核部分が請負に出されている、非正規でされている、こういう印象を受けたのですが、そういう観点から、もう少し、大野さんのなさっている仕事の具体的な中身のところを、素人にもわかるようにお話をいただけるとありがたいのですけれども。 ○大野公述人 質問にお答えします。 私たちの仕事なんですけれども、入社したのは自分は七年前なんですが、そのころは正社員の方に仕事を直接教えていただき、物すごく厳しく、レンズもとても高価なものなので、取り扱いなど、例えば作業服にペンを挿していたりとか、そういうのも落としてしまったらレンズがだめになってしまうので、そういうものをまず取っ払って、時計をするなとか、そういう細かなところまですべて教えていただきました。 そういう大変なものをつくっているんだなということと、仕事内容を教わっている間なんですけれども、約三カ月ぐらいは本当に実際に作業をさせてもらえないような状態で、ほとんど勉強の日々ですね。最初入ったときは、自分は派遣だと思っていたので、派遣社員というのは、先ほどおっしゃったように、もっと簡単な仕事なのかなと思っていたのですが、こんな難しい仕事をやらせてもらえるんだという、ある種喜びのようなことを感じました。だんだん続けているうちに、とても楽しいし、確かにこういう日本の技術の中核となるような部分に触れられているということは、すごく誇りだなと思いました。できるまでに三カ月と言ったんですけれども、あくまでも機械を扱える程度が三カ月ぐらいで、実際にその仕事を熟知するのには二、三年は要しまして、二年、三年ぐらいたってやっと一人前というか、そういう仕事です。 とても神経を使って物すごく難しい内容だということを、期間だけで申しわけないんですが、わかっていただければと思います。 ○枝野委員 ありがとうございます。本当に、まさに世界に冠たる日本の技術を大野さん初め背負っていただいているんだなということを、我々素人にわかるようにお話をいただけたんじゃないかというふうに思っております。 今度は、組合の支部長というお立場で、東京ユニオン全体としても、キヤノンに関連して、請負の方が、本来正社員になれるべき立場なのに、そういうことを教えてもらえなくて途中でやめさせられたりなどというケース、資料でもきょう用意をしていただいている中にあるようですが、おわかりになる範囲で簡単に、こういう話を聞いているということを教えていただければというふうに思います。 ○大野公述人 お答えします。 事務系の派遣の方で、三年間勤務すると雇いどめというか、そういうことがあったという話を聞いています。中には、十五年ほど派遣をしていて解雇されてしまったという話も聞いています。そういうのを聞いて、とてもひどいな、十五年勤務していたら正社員という道があってもいいのではないかと思いました。そういうことがあったというふうに聞いています。 ○枝野委員 それから、きょう、資料で、キヤノンの正社員採用セミナー開催、こういうのをつけていただいています。 念のためなんですが、一月二十七日とか書いてあるんですが、これは、ことし出たものということでよろしいんでしょうか。うなずいていらっしゃいますが、お答えでお願いします。 ○大野公述人 お答えします。 それは、ことしの広告でございます。 ○枝野委員 そうすると、皆さんが立ち上がって何とか正社員にしてくれというようなお話を会社などともして、労働局にもお話をして、それ以降であるし、それから、御手洗会長が正社員化を進めますというようなことを報道された後であるということになるわけだなということを今確認させていただきました。そういうことですよね。 ○大野公述人 ええ、そうです。その書いてある内容は、以前からずっと同じもので、今も変わっていないということです。 ○枝野委員 今度は、日本の技術の最先端を担っていただいている物づくりの、職人さんという言い方がいいんでしょうか、エンジニアさんという言い方がいいんでしょうか、その立場として、キヤノンに限らずいろいろなところで同じようなことが起きているのではないかと一般的には報道等で言われております。物づくりは、今お話しいただいたように、大野さん御自身も三カ月勉強して、それでようやく機械が扱えて、一人前になるのに二、三年かかると。こういう技術を持っていらっしゃるエンジニアの方で日本の技術が支えられていると思うんですが、そうした皆さんのかなりの部分が、今の大野さんのお立場のように、不安定な状況に置かれている。 日本の物づくりというのは、皆さん異論なく、こういう世界に冠たる技術を持って、他の国ではなかなかつくれないものをつくるというのが日本の売り物だ、財産だと思うんですけれども、こういう状況で実際に働いている立場として、そういうことが日本じゅうの物づくりで起こっている、あるいは起こっていきそうだ、こういう状況をどういうふうに受けとめられますか。 ○大野公述人 自分も、確かにそういう中核的な仕事、非常に大事なところをやらせてもらって、今エンジニアとおっしゃってもらったんですけれども、実際働いたときには、印象どおりの派遣社員だなという感じで入ったんですけれども、確かに、そういうことがどこの職場でも起きているというのを、いろいろな記事を目にします。 いい製品をつくろうと日々努力もしていますし、それが物をつくる上で、すごく自分にとってはやりがいのあることだし、そう思っています。ただ、年々やはり賃金が下がってきたとか、そういうところもありまして、自分が入ったときはそこそこいい賃金をもらっていたんですけれども、最近入る人は自分とかなりの差があって、結局は、仕事を教えているうちに、その三カ月の間に彼らがやめていってしまう、そういうことが実際に次々と起きてしまいます。この難しい技術を自分たちが教わったように伝承しようとしたときに、新しい人たちに伝え切れないままやめてしまう。自分たちは、やりがいを持っているし、何とか伝えたいと思うんですけれども、結局伝えられないし、自分は自分で不安を抱えている。そういう状況が恐らくどこの職場でも起きていると思います。 ・・・【以降、途中まで略】・・・ ○ 枝野委員 ちょっと難しいことをお尋ねするかもしれませんが、大野さん、ちょっとお聞きをいただきたいんです。 キヤノンの会長の御手洗さん、経済財政諮問会議という政府の機関の委員でもあられて、国際競争が激しくて大変なんだ、だからコストを下げなきゃいけないんだということを一生懸命おっしゃっていらっしゃるんですね。コストを下げなきゃいけないから、そう簡単に正社員にするわけにいかないんだみたいな趣旨のこともおっしゃっておられるんですよ。 今お話しのとおり、大野さん御自身も昇給はないし、後から入ってくる若い人はもっと給料がどんどん下がっている、こういう実情にあるんですが、一方で、キヤノン本体の会計を見てみますと、例えば、平成十五年に決めたその年の役員の賞与というのは一億四千万円、その次の年は一億九千万円、その次の年は約二億円、一番直近、十八年の三月に決めたのは二億二千万円と、どんどんどんどん役員の皆さんの賞与は伸びておられるんですね。それから、同じように、株主の皆さんへの配当も、十五年三月に決めたのは百五十億円余り、それが、一番最近では六百億、百五十億から六百億へとふえているんですよ。 そういうふうに、株主には配当するお金がある、役員の皆さんが取る収入はぐっとふえている、だけれども、国際競争が激しいから正社員になかなかできないんだ、こういう実態にあるんですけれども、どういうふうに思いますか。 ○大野公述人 お答えします。 確かに、自分が勤めている会社は宇都宮なので、海外に流出されてしまっては働くところがなくなってしまうんですけれども、自分たちは現場の意見なので、会社の上の方のちょっと難しい意見まではできないんですけれども、自分たちが感じるのは、要するに、いい製品をつくるように任されていると思っているので、自分たちはいい製品をつくれるように頑張っているし、自分たちはその仕事でやりがいを持って、それが会社のためになって、会社の利益につながっているのであれば、それは自分たちにとってはうれしいことなんですけれども、結局、それをつくっている自分たちも、不安な状態で働いていて、要するに、これ以上続けられないかもしれないという状態である。先ほども申したように、伝承もできていない。 現場の悩みというのはすごくあって、今まではよかったけれども、これからはひょっとしたら大変なことになるかもしれない、物づくりに関することに対しては大変なことになってしまうかもしれない、そういうふうに思います。 もし、そういうことを会社の人と話し合えると一番いいんですが、自分たちの思いとは別に、そういうふうに配当されていったりとかというところがあるというのは、きょう聞いて、ちょっとびっくりしました。 ○枝野委員 私の残り時間、あと三分ぐらいなんですが、うちがお願いをして来ていただいているので、大野さん、もし言い残したこと、言い足りないことがあれば、どうぞ。 ○大野公述人 残り時間、ありがとうございます。 経団連会長でもあってキヤノンの会長である御手洗さんに聞いてもらいたいんですけれども、自分たちは今まで、非正社員、正社員と関係なく協力して、日々努力して、すごくいい職場を十年かかってつくり上げてきました。最初、派遣社員二人と正社員二人でつくり上げた職場が、現在七十人。多いときは百人ぐらいいたんですけれども、そこまで成長してきて、生産量も物すごく上がった。そこの陰には、日々切磋琢磨してお互い頑張ってきた正社員と非正規社員のつくり上げてきたこの職場がたまものだと思っているので、この職場を守りたいというのが一番。できれば正社員となって、この職場をこれからも守っていって、さらにキヤノンに貢献できればと、そういう強い思いで働いているのと、今回は活動させていただいています。 もちろんキヤノンが好きですし、いい物をこれからも誇り高く思ってつくっていきたいと思っています。もし届いたなら、それを御手洗会長に聞いてもらいたいと思っています。 ○枝野委員 本当にありがとうございます。 個人的なことですが、同郷でございますので、ぜひ頑張って、世界に冠たる製品をこれからも安心してつくっていただけるように、我々もサポートできることがあればというふうに思っております。 ・・・【中略】・・・ 中川先生のお話も大変興味深く聞かせていただいたんですが、専門外のことなので、お尋ねをさせていただく機会がありませんでしたが、お許しをいただければと思います。 本当に、四人の皆さん、きょうはどうもありがとうございます。終わります。 ○金子委員長 次に、塩川鉄也君。 ○塩川委員 四人の公述人の皆さんには、それぞれ貴重な御意見、ありがとうございます。 ・・・【以降、途中まで略】・・・ 次に、大野公述人にお伺いいたします。 現場の実態、製造業において、本来、技術、技能が必要なところで派遣、請負という雇用形態というのは、かえってその企業の技術力を弱めることになりはしないか、こういう懸念というのをお話の中でも改めて感じました。 そこで伺いますが、ステッパー、半導体製造装置をつくる際に非正規と正規の方が一緒に作業している、これについて、労働局からの指摘もあり、キヤノンと請負会社は完全な請負を目指すということを言っているそうなんですけれども、十月以降、現場では何らか、完全な請負を目指すということでの、仕切りを直すですとか、何かそういう話というのは実態としてはどうなっているんでしょうか。 ○大野公述人 お答えします。 申告日以降なんですけれども、事実、自分たちが言われたのが、完全な請負を目指すということで、それまであった正社員の机を職場外に移動して、あとは、床にラインを、テープを引き、そのときは請負会社は二社いたんですけれども、色分けをして、ここは自分が勤める請負会社、もう一つはもう一つの請負会社。同じ部屋内で、ここからここは請負会社、ここは違う会社ですという分け方、でも、一緒につくるところは共有設備です、そういう明示がはっきり書かれるようになって、それが、いうところの適正な請負かというところなんでしょうか。 今はそういうところで、実際、正社員というのは職場には一度いなくなったんですけれども、ちょっと新技術が投入されて、その期間、先ほども述べさせていただいたように、正社員が大量に投入されてきまして、今は、自分たちの請負会社と正社員の人、同じ部屋の中で全く会話をすることなく作業しているような感じです。それが適正な請負というのかなと自分たちは疑問に思ってしまうんですが、同じ職場にいながら話をしない、そういう状況です。 ○塩川委員 半導体製造装置のレンズの研磨ということであれば、当然技術の向上が求められているわけですから、本来であれば、正社員と仕事して、一体で行われるべき話でありますが、現実には、かえってそれが不正常な事態を招くようなことになる。そういう意味でも、私は、コストダウンを目的にしたような製造請負というのはそもそも成り立たない、完全な請負というのはないんだと率直に思うわけですね。そういう点でも、国、労働局の指導の方向というのが間違っているということは、私は今の大野さんのお話を聞く中でも改めて実感をいたしました。 その点で、今、全国でも、こういう請負会社、派遣会社で働く労働者が立ち上がって、直接雇用、それから正社員化を目指す取り組みを行っております。私も去年、予算委員会でも取り上げた、トヨタの系列の光洋シーリングテクノという会社におきまして、やはり請負労働者の皆さんが労働組合もつくって働きかけることによって、直接雇用、そして正社員化へという道を開くという合意を結んだということを聞いております。 そういう意味でも、各地での、こういった不正常な雇用関係にあるような請負労働者、派遣労働者の直接雇用、そして正社員化を目指す、こういう取り組みについて、こういう運動の広がりについて、率直にどんなふうに受けとめておられるのかをお聞かせいただけないでしょうか。 ○大野公述人 お答えします。 自分たちも、そういう動きを見て、なるほど、労働組合というのはこういうものなんだということを勉強し始めて、実際やってみて、とてもいいなと。働く仲間たちの意識もすごく高まり、実際、今かなりの人数の非正社員が世の中にはいると思うんですけれども、彼らは何もそういう組合のシステムとかを全員が知っているわけじゃなく、ちゃんと集まって会社に物を言える、そういう仕組みがどんどんできていけばなと思っております。 ・・・【中略】・・・ ○ 金子委員長 次に、阿部知子君。 ・・・【以降、途中まで略】・・・ まず、大野公述人にお願い申し上げます。 先ほどのお話を伺っておりまして、当初、工場の立ち上げからキヤノンでのお仕事をしておられて、キヤノン側の正社員がお二人と、大野さんともう一方が請負会社からそこに行かれて、最初、御自分を派遣と思っていらしたということのお話でありました。 もともとこの請負の会社で働き方を会社と御自分が取り決めるときに、何か文書で、自分が派遣か請負かわかるようなものがあったのか。あるいは、これは本当に難しくて、恐らく、若い人たちに聞くと、自分が派遣なんだか請負なんだかよくわからないなという人が多いと私は勝手に思うのですが、そのあたり、働いている仲間とはどんなふうに話されているかを、一問目、お願いします。 ○大野公述人 お答えします。 自分たちの職場が十年前から立ち上がったということで、自分ではないもう一人の非正社員と二人で築き上げた職場で、自分は七年間そこで働いています。 そういうことを、請負、派遣という言葉、請負という言葉を知ったのも実はつい最近でして、そういうのは何も説明なく、恐らく、全国で働く請負、派遣の人で、自分が請負、派遣で、派遣はこういう制限があり、請負はこうだということを多分知らないで働いている人が多いのではないかと思っております。 ○阿部(知)委員 東京ユニオンの方でまとめられた資料の中にも、当然、派遣であれば、この三月、四月からは違ってまいりますが、一年間で契約が終わったときに正規の職員としての雇用の申し入れ等々を行わねばならないところを、そうした直接雇用申し込み義務をやらなかった事例とか、次々と出ております。特に、働く側も自分の身分がよくわからない、そして使っている側もルールを守らないとなると、本当に、働く場の雇用の安心とか、もっと言えば安全もないように、私は承りながら思いました。 特に一点教えていただきたいのは、働いておられる場で、どなたか、労働災害のような形で事故ないしけがのあった方がおありだったか。労災の場合は、派遣と請負ではおのおの管理責任が違ってまいりますけれども、もし具体的にそういうことがおありであったら、どう処理されたかも教えていただきたい。また、御自身の身の回りでなければそれはそれで、ないというお答えで結構です。 ○大野公述人 労働災害ですね、小さいけがとかそういうことはあって、確かにそういうことに対して対策はなされるんですけれども、どうしてそういう対策がされているかとかということは自分たちは聞かずに、例えば眼鏡をしなさいとか、その程度の話でいつも終わる。そういう意味でも、労働災害に対して、請負と正社員ではちょっと温度差があるなと思います。 ○阿部(知)委員 ありがとうございます。 ・・・<以下省略>・・・ |