『陳述書』

E-3

（３）平成10年暮れ～正月
　平成10年12月30日（水）から平成11年１月３日（日）の暮れ・正月休みには、勇士は、東京の実家で私と一緒に過ごしました。

　12月30日（水）には、勇士は仕事が終わってすぐ東京へきました。
　変則的な昼夜二交替勤務は、勇士にとって相当つらかったようであり、正月に家に戻ってきた時に、勇士は身体の不調を訴え、会社を辞めたいと言っていました。そして、�寝ても疲れが取れない��頭が重い�と話していました。

　12月31日（木）は、年の暮れでしたので、私が勇士を暮れの買い物に誘ったのですが、�そんな気分になれない�と言って、勇士は来ませんでした。
　勇士は、普通であれば、親と一緒の外出は行く方だったので、私は、このときは、勇士が疲れているのだろうから休ませてあげようと思って、それ以上特に誘いませんでした。
　そして、買い物から戻ると、暮れの大掃除のため、勇士が風呂を掃除していました。勇士は、風呂部屋を、カビキラーを使っているにもかかわらず、締め切っていたため、部屋はむせ返るようなにおいで我慢できないくらいになっていました。それにもかかわらず、勇士が全く気にかけずに風呂掃除をしているのを見つけて、びっくりしました。
　勇士に問いただすと、�カビキラーは新製品になっていて無臭になったのかと思った。かなり頭痛がしたし、目も痛かったけど、疲れているせいかと思った�と答えたので、本当にびっくりしました。部屋の空気を入れ替えてしばらくしてから、食用酢の原液で嗅覚を試してみましたが、いつまでも平気で鼻を近づけており、全くにおっていなかった様子でした。そこで、アイマスクで目を覆って、たくさんの食品、家庭で使用する物、料理などで勇士の嗅覚を試してみました。醤油、ミソ、ソース、ケチャップ、梅干、ごま油、納豆、ワイン、つけもの、コーヒー、カレーライスを嗅がせてみましたが、全く区別できませんでした。それで仰天している私に、勇士は�実は味もちょっと自信がないんだ�と打ち明けました。そこで、アイマスクをして、味覚も試してみましたが、味覚もなくなっていることがわかり、本当にショックでした。

　今までのいらいら感がやや減った代わりに、無表情でぼんやりしていることが多くなりました。
　勇士は、�最近簡単な単語もよく打ち間違えるんだよね。頭がぼうっとしてるっていうか。悲しいよ。昼とか夜とかっていう感じじゃないんだよね。時差ぼけってこんな感じかなあ�と言っていました。そして、α波発生装置のヘッドフォンを耳にかけ、上向きに昼寝をしていました。そこで、私が、�痩せてかわいそうに�と思って額をなでてやると、目を開きました。�寝てはいないのだなあ�と思いました。

　勇士は、夜、机に向かって専門書を開いている時に、突然両手を振ったりしていました。勇士によると�手や腕がしびれる�のだそうです。そこで、１つ750グラムぐらいのダンベルを両手に持って、軽い体操をしていました。ゆっくり筋肉に負荷をかけると血液が巡ってくるとのことでした。勇士は、�この頃よくこうなる�と言っていました。
　勇士は、専門書に向かうときには、必ずα波発生装置を耳にかけていました。�そうすると落ち着く。集中出来るんだ�と言っていました。私にも�付けてごらん�というので耳にしてみたところ、優しい低音が聞こえました。
　時間を見ては専門書に向かっているので、私が�頑張ってるね�というと、�なかなか頭に入って行かなくて焦るんだ�と言っていました。そして、専門書に向かったまま、目を閉じてじっとしたりもしていました。
　また、勇士は、膝枕での耳掻きを希望しました。私が、�もう終わったよ�と声をかけると�右をもう少し、左をもうちょっと�とねばっていました。�寂しいのかな�と思ったので希望をかなり叶えてつき合いました。

　勇士は、この正月に、泊まり用のバッグに沢山のガムを用意してきて、頻繁にガムをかんでいました。�最近、のどが乾く感じがするんだ。水が飲みたいっていうのじゃなくて、のどがひっつく感じの方。ガムをかんでいると楽だ�と言っていました。
　この頃は、勇士は、動作をやめて目を閉じたままになるとか、ぼんやりというか無表情になることはありました。他にこの頃は、特に思い切り甘えるようになったと思いました。
　大晦日から元旦にかけて、私は勇士を初詣に誘いましたが、勇士は行きませんでした。勇士が�家でいる方がいい�というので一緒にテレビを見ました。暮れの番組は大騒ぎする物が多いですが、勇士は、時々、画面を見ないで、無表情で、別の方向を見てじっとしていました。私は、気になったので、洋画の特集の方にチャンネルを回したりしました。勇士が、�おもしろいのがないね�というので弟の借りてくれたビデオ『ショーシャンクの空に』を見ました。そのビデオの内容は、感動的なものだったので、親子でいい気分になりました。勇士も�久々にいいものだった�と喜んでいました。
　ビデオで感動した後、その日は就寝しました。私は更年期障害の最中だったので動悸がしたり、眠りが浅かったりで、しばしば起きてトイレに行ったりしました。そのたびの衣擦れの音や、畳のきしむ音などで、勇士はそのたびに目を開いていました。学習中の手・腕のしびれ、夜の浅い眠り等、更年期障害の私とそっくりと思いました。

　勇士は、冬休みの最初の頃に激怒するように言っていた他人への不満は少し和らぎ、その代わりネクスターからの引越の話がなければ辞めようと心が傾いていたようです。
　勇士は、平成11年１月４日（月）朝、熊谷に戻っていきました。

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