『陳述書』

E-6

（６）平成11年２月（2/21～2/28）
　２月21日（日）、東京から帰った翌日は休日出勤でした。�７時間もかかったので疲れた�という電話がありました。勇士は、�夕べは東京から電車を乗り過ごしてしまった。家に帰ったのは夜11：00を過ぎた�と言っていました。そして、�何とか頑張って野菜をとって体調を良くしないと。さっそくホットプレート（グリルパン）を買ってきた。狭い部屋だけど長いコードが必要なので新しく買った�と言っていました。そこで、ピーマンや椎茸を買った話をして、他に焼いておいしい野菜は何だろうという話をしました。何とか頑張ろうと気をもり立てているように感じたので、応援して話に乗りました。

　２月22日（月）、電話で、勇士が�今日はおやすみだったから�と言ったので、さっそく�ホットプレートどうだった�と聞くと、�うん�と力のない返事が返ってきました。口数は少なく、人を攻撃するような鋭さはありませんでした。聞いたことに答える位の低い声だったので、あまり長電話にしないように切りました。

　２月23日（火）、勇士から電話があり、うってかわって明るい声で報告がありました。勇士は、�ネクスターに退職を申し出た。明日、係りの人が来て話する事になった�と解放されたような明るさで話していました。
　しかし、２月24日（木）の電話では、勇士は�ネクスターの話は例の如くはっきりしない。３月15日とか言ってる。聞いてみるから待ってて、と言うんだよ�とにかく暗い声で、短めの話の電話でした。この話を聞いた私もとても不安になりました。
　同日、しばらくして再度電話が入りました。明るい声と言うより、自分の考えに同意を求めるような、自分の気持ちを確かめる様なそんな感じでした。とにかく同日の最初の電話より声に力があり、�明日の夜勤でニコンから話が有ると思うから、そのとき、自分の気持ちをはっきり言うから。次の仕事は就職雑誌で、良く研究するから�と話し、親を安心させるような、自分に言い聞かせるようなそんな電話でした。
　このように、２月24日にネクスターのＳ氏（第２回証人・元ネクスター営業）と話し合ったところ、退職することはすぐに受理されませんでした。勇士は、思いきって退職を申し出たのに退職が認められなかったことで失意に追いこまれたのだと思います。

　２月25日（金）、夜勤に行く前に勇士から電話が入りました。その電話では、勇士は、もうすっかり今夜ニコンから話が有るものと思っていることが伝わってきました。勇士は、退職の気持ちははっきり伝え、即退職するつもりでいたようなので、話は今後の事に終始しました。声に力がありました。
　勇士は、�大きな荷物は兄ちゃんのところに送るから。尾久（東京）には全部揃ってるんだから、なるべく身軽にして行くから。車の免許取るよ。兄ちゃん達が取った教習所近いんだよ。頑張る。雇用保険も聞いてみるから�と言っていました。

　２月26日（土）、夜勤明けの朝に勇士から電話が入りました。�もしもし�という声を聞いただけで、いい結果でなかったことがはっきりしました。とても沈んだ暗い声でした。
　勇士の話の内容は、�夕べはニコンから退職についての話があるかと思ったら何もなかった�というものだけでした。一つ一つ切るように話していました。正月明けからの忙しかった頃の電話に似て、短い単語のような電話だと思いました。違ったことは、あの時のような悲鳴のようではなく、声に全く力がなかったことです。退職の申し出については、ネクスターから�ニコンには、絶対直接言わないで�と言われていたとのことだったので、ニコンに直接言わなかったようです。愚痴も何もなし。とにかく落ち込んで短い電話でした。

　同日、弟のＹＡが電話を入れました。
　ＹＡが、勇士から、以前に聞かれていた退職後の雇用保険や会社を辞める手続きについて、内容を話すと、勇士からは�ああ、そうなんだ�と短い暗い返事だったそうです。ＹＡがいつものバカ話でジョークを飛ばしたところ、乗ってこず、�うん�と一言静かな答えが返ってきただけだったそうです。

　２月27日（日）、私は、祖父母の様子を見に岩手に夜行バスで行く日でした。東京の実家を出発する夜の9：30過ぎに、勇士に電話をしました。私が、�じゃあ池袋に行くからね（夜行バスは池袋西口からの出発です）�と話すと、�ああ今から夜行なんだね�と返事しましたが元気のない、低く暗い声でした。いろんな事を話すでもなく、短く終わりました。

　２月28日（月）、夜行バスは東北道が大雪で大変に遅れ、通常は早朝4：40頃には着くのに、その時は、8：30頃着きました。乗った私としては大変な疲れで、大事件です。到着時に勇士に電話を入れたところ、この手の話は、いつもの勇士なら同情かたがた、たくさん聞いてくれるのですがこの日は、�そう、無事で良かった�と、とても短く低い声でした。
　元気がないというより、感情がないような不思議な声でした。勇士が自分から話しかけることはありませんでした。退職の事がはっきりしない上に、親が少し遠くなって寂しいのかなと思いました。
　無理に話しかけるのは酷かなと思えるような声だったので、本当はもっと声を聞いていたかったのですが、短い電話で終わりにしました。
　勇士の声を聞いたのはこれが最後でした。

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