『判決』


平成17年3月31日判決言渡
同日原本領収  裁判所書記官 ※※※
平成12年(ワ)第14717号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成16年12月24日

判決
  (※以下に原告・被告の氏名・住所、各代理人氏名が記入されています。略)

主文
 
被告らは、原告に対し、連帯して、2488万9471円及びこれに対する平成11年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 
原告のその余の請求をいずれも棄却する。   
 
訴訟費用はこれを6分し、その5を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。   
 
この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。   

事実及び理由
第1 請求
  被告らは、原告に対し、連帯して、1億4455万5294円及びこれに対する平成11年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
   本件は、被告株式会社アテスト(旧商号・株式会社ネクスター。以下「被告ネクスター」という。)の従業員であり、被告株式会社ニコン(以下「被告ニコン」という。)の熊谷製作所(以下「本件製作所」という。)で勤務していた(勤務形態等については、後記のとおり争いがある。)亡上段勇士(以下「亡勇士」という。)が自殺により死亡したのは、その勤務における過重な労働等による肉体的負担及び精神的負担のために亡勇士がうつ病に罹患したことが原因であるとして、亡勇士の母である原告が、被告らに対し、安全配慮義務違反ないし不法行為に基づく損害賠償及びそれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

前提事実(争いのない事実及び掲記証拠により容易に認められる事実)
(1)
当事者
 

 被告ニコンは、精密機械・器具等の製造及び販売等を主たる業とする株式会社であり、半導体(以下「IC」という。) の製造工程で用いられる超微細なIC回路パターンを露光・転写する装置であるステッパーを本件製作所において生産していた。
 被告ネクスターは、電子計算機のソフトウェアー及び機能システム・プログラムの開発・設計・作成、事務用機器の操作・保守・維持管理等の労務の請負を業とする株式会社であり、本件製作所が所在する熊谷市内に熊谷営業所を設けていた。
 

 亡勇士(昭和50年11月19日生)は、上段A(以下「A」という。)と原告との間の子であり、平成9年10月27日、被告ネクスターに入社し、同日より、被告ニコンの本件製作所第二品質保証課成検係に配属され、主としてステッパーの完成品検査作業に従事し、平成11年2月25日までその作業に従事した。

 
(2)
勇士の自殺(甲1及び弁論の全趣旨)
 

 亡勇士は、平成11年3月10日、埼玉県熊谷市※※※※所在の自宅ワンルームマンション居室(B103号室。以下「本件居室」という。)内にて自殺体で発見された。
 C病院のC医師は、同日、亡勇士の遺体を検案し、その死亡推定日を同月5日ころと診断した。

 
(3)
本件製作所における就業時間帯(乙7)
 

 亡勇士が勤務していた期間の本件製作所の被告ニコン従業員の通常勤務の就業時間は午前8時30分から午後5時30分までの間の8時間(午後0時から1時までは休憩時間)であった。
 通常勤務の被告ニコン従業員の平成9年度(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)の年間所定休日は125日、同年度の年間所定労働時間は1920時間であり、平成10年度(平成10年4月1日から平成11年3月31日まで)の年間所定休日は126日、同年度の年間所定労働時間は1912時間であった。

 

 亡勇士が勤務していた期間の本件製作所の被告ニコン従業員の交替勤務(以下「本件交替勤務」という。)は次のとおりである。

 
(ア)
 3組2交替制(勤務番を3組とし、それぞれの組が昼勤、夜勤、休日のいずれかに当りながら、規則的にローテーションを繰り返す。)
 
(イ)
昼勤  午前8時30分から午後7時30分までの間の9時間45分勤務
(休憩時間は、午後0時から午後1時まで及び午後5時30分から同時45分まで、リフレッシュタイムは、午後3時から同時10分まで)

夜勤  午後8時30分から翌日午前7時30分までの間の9時間45分勤務
(休憩時間は、午前0時から午前1時まで及び午前5時30分から同時45分まで、リフレッシュタイムは、午前3時から同時10分まで)
 
(ウ)
 本件交替勤務のサイクルは3週間で1サイクルとなるように次のように定めていた。
 


「曜日」
「勤務番」
I
昼勤
昼勤
休日
夜勤
夜勤
夜勤
休日
「勤務番」
II
休日
休日
昼勤
昼勤
昼勤
昼勤
休日
「勤務番」
III
夜勤
夜勤
夜勤
休日
休日
休日
休日

 

「週」
1週目
2週目
3週目
「班」
1班
I
II
III
「班」
2班
II
III
I
「班」
3班
III
I
II

 
(4)
 ステッパー及びその検査について(乙9、10、49及び弁論の全趣旨)
 

 ステッパーとは、ICの製造工程で用いられる0.25μm前後という超微細なIC回路パターンを露光・転写する装置である。
 その基本的仕組みは、IC回路パターンが描かれている写真のネガに相当する「レチクル」と呼ばれる原版にレーザー光線等の強い光を当てて、その像を縮小投影レンズを通して超微細に縮小し、感光剤を塗布した写真の印画紙に相当する「ウエハ」と呼ばれるシリコン等の薄板の表面に、IC回路パターンを次々と焼き付けていくというものである。
 ステッパーの本体は、光線を調節するためのレンズが複数組み合わされた「照明光学系」、心臓部である縮小投影レンズ及びウエハを載せる平らな台である「ステージ」から成り、それに加え、レチクル及びウエハを自動交換する装置やIC回路の位置合わせ等の際に用いられるセンサー・検査器等が付属している。そして、防塵、温度及び湿度を一定に保つため、これらの装置を「チャンバー」と呼ばれる金属の箱で覆っている。
 ステッパーの制御や各種データの測定等はチャンバーの外側に付属する「制御ラック」に備え付けられているパーソナルコンピューター(以下「付属パソコン」といい、パーソナルコンピューターは単に「パソコン」という。)で行われる。

 
 本件製作所内におけるステッパーの生産工程は、概ね次のとおりである。
 
(ア)
縮小投影レンズ、ステージ等各部(ユニット)の組立工程
 
(イ)
ステッパー本体の組立工程(各ユニットの組み付け)
 
(ウ)
製品を正常に作動させるための調整工程
 
(エ)
製品が正常に機能するか確認する社内検査工程
 
(オ)
製品の発送手配
 
(カ)
製品の出荷工程

 
 ステッパーの納入先における工程は、概ね次のとおりである。
 
(ア)
製品の搬入
 
(イ)
製品を正常に作動させるための調整工程(約4〜6週間)
 
(ウ)
製品が正常に機能するか確認する検査工程
 
(エ)
検査成績書に基づく顧客への報告・説明
 
(オ)
製品の引渡

 
 ステッパーの完成品検査には、一般検査とソフト検査があり、その一般検査の中には、製造工程で組み立てられ、調整された製品の精度等を検査するもので本件製作所内において製品の出荷前に行われる社内検査と、顧客先搬入・据付後引渡前に行われる納入検査とがある。各検査作業においては、検査報告として、検査の進行状況について、検査担当者同士あるいは設計担当者等の関係者との間で情報を共有するため、電子メールにて情報交換が行われていた。