『判決』


(カ)
業務以外の心理的負荷の強度の評価について
 本件評価表2の「具体的出来事」欄には「多額の財産を喪失した又は突然大きな支出があった」(心理的負荷の強度「III」)、「借金返済の遅れ、困難があった」(心理的負荷の強度「II」)、「引越した」(心理的負荷の強度「II」)がある。
(キ)
個体的要因の検討について
 検討すべき個体的要因としては次のものがある。
 
a
既往症(精神障害)
 
b
生活史(社会適応状況 過去の学校生活、職業生活、家庭生活等における適応に困難が認められる場合)
 

アルコール等依存状況
 

性格傾向(性格特徴上の偏り)

VDT作業に関する医学的見解等
 次のとおり、VDT作業により、目の疲労・慢性疲労が生じることが指摘されている。
 
(ア)
 労働科学研究所研究部主任研究員佐々木司(以下「佐々木」という。)は、いわゆるVDT作業により、目の疲労があること、疲労が翌日まで持ち越す慢性疲労の傾向があることを指摘している(甲88)。
 
(イ)
 産業医学総合研究所斉藤進は、旧労働大臣官房政策調査部(平成10年)及び中央労働災害防止協会(平成11年)等のVDT作業者を対象とした大規模実態調査によれば、職場でコンピューターを利用する人々は極めて高率に心身の疲労を訴えていることが分かるとしている(甲115)。

 昼夜交替勤務・深夜勤務に関する医学的見解等
次のとおり、(1)昼夜交替勤務・深夜勤務により、夜間睡眠と比較して昼間睡眠の量・質が低いこと及び夜勤慣れがないこと等により、睡眠障害・消化器疾患等が生じ、慢性疲労が生じていること、(2)仮眠には前記障害等に対し効果がある等と指摘され、(3)夜勤時の時間外労働、夜勤の連続勤務をできる限り制限すべきであり、(4)各夜勤間の間隔時間を十分に取るべきであり、(5)夜勤中には仮眠を取るようにすべき旨の指摘もなされている。
(ア)
 日本産業衛生学会交代勤務委員会は、昭和53年3月、夜勤・交替制勤務に関する意見書において、次のような指摘をしている(甲84)。
 
a
 交替勤務に伴う健康障害としては、消化器疾患が顕著であるほか、呼吸器疾患、腰痛等の運動器の疾患及び各種の神経系症状の進展等があり、さらに一般的健康状態の低下、過労による疾患の誘発等がある。
 
b
 前記原因としては、(1)生体リズムの乱れに伴う疲労と睡眠不足あるいは栄養摂取の不整等による病気への抵抗性の減弱、(2)自律神経機能失調若しくは精神身体医学的要因等による直接の発症機転としている。
 
c
 夜勤・交替勤務の従事者には、日常的に諸生理機能の乱れが反覆されることが大きな特徴であって、これは、夜業昼眠生活に対する生体リズムの位相逆転が完全に成立しないことに基づく。
 
d
 夜業昼眠生活に対する完全な慣れが生じない。
 
e
 夜業期間中ないし大幅な生活時刻のずれをおこす勤務期間中は、生体リズムの作用と環境刺激とによって、睡眠量が量・質ともに不足したまま推移する。食事時刻等の不整もこれに関係する。昼眠が夜眠と異なるものにとどまることは、生理反応や脳波の研究から明らかにされており、夜業期を中心とした睡眠不足が交替勤務の有害な影響をさらに加重することになる。
 
f
 夜業期ごとの生体負担を軽減し、その前後の休養を確保することが重要であり、夜勤時の仮眠が効果をもつ。
 
g
 夜業を1日にとどめる場合には、生活時刻の位相ずれによる混乱が実質的に少ないうちに正常の昼業夜眠に復帰し得ることが知られており、夜勤の連続日数を短縮して早期交替と十分な休日配分とを行う交代方式が国際的に推奨されている。
 
h
 交替勤務における労働時間基準と勤務編成基準について次の項目の実施を提言している。
 
(1)
 交替勤務による週労働時間は、通常週において40時間を限度とし、その平均算出期間は2週間とする。時間外労働は原則として禁止し、あらかじめ予測できない臨時的理由に基づくものに限り、年間150時間程度以下とすべきである。
 
(2)
 深夜業を含む労働時間は1日につき8時間を限度とする。ただし、作業負担が身体的及び精神神経的に軽度な断続的業務に関しては拘束12時間まで延長することができるものとするが、その場合はこの勤務が連続しないようにする。
 
(3)
 深夜業を含む勤務では、勤務時間内の仮眠休養時間を、拘束8時間については少なくとも連続2時間以上確保することが望ましい。
 
(4)
 深夜勤務は原則として毎回一晩のみにとどめるようにし、やむを得ない場合にも2から3夜の連続にとどめるべきである。
 
(5)
 各勤務間の間隔時間は原則として16時間以上とし、12時間以下となることは厳に避けなければならない。やむを得ず16時間以下となる時も、連日にわたらないようにする。
(イ)
 ILOは、平成2年6月26日、次の項目を含む夜業に関する勧告を採択した(甲110)。
 
a
 夜業労働者の通常の労働時間は、夜業に従事するいかなる24時間においても8時間を超えるべきではない(労働内容、保護内容及び労働協約等による例外有り。)
 
b
 作業は、夜業を含む1日の勤務の前後には夜業労働者による超過勤務をできる限り回避するような方法で編成されるべきである。
 
c
 夜業を伴う交替勤務の場合においては、(1)不可抗力又は現実の若しくは急迫した事故の場合を除き、二連続の勤務は行われるべきではない、(2)二の勤務の間に少なくとも11時間の休息の期間ができる限り保障されるべきである。
 
d
 夜業を含む1日の勤務には、労働者が休息し及び食事をすることができるように1又は2以上の休息を含むべきである。
(ウ)
 酒井一博及び小木和孝は、夜勤・交替勤務による労働者への影響として、(1)生理的なリズムの乱れ、(2)疲労・健康低下を指摘し、具体的には昼間睡眠は夜間睡眠に比べ、入眠潜時を多く要したり、深い睡眠(徐波睡眠)が出にくい、途中覚醒が多いなど、質が悪く持続時間も短いので睡眠不足になる、夜勤生活を繰り返しても生理的な逆転は起こらず、夜勤慣れはないこと、夜勤疲労は慢性疲労であることを指摘し、また(3)夜勤慣れがないこと等から夜勤・交替勤務は早期交代(可能なら1日、せいぜい2、3日)が推奨される、(4)仮眠には概日リズムの乱れを最小限にするアンカー睡眠効果、疲労回復効果があると指摘している(甲51、乙29)。
(エ)
 篠田毅及び山田嘉昭は、昼夜交替制勤務により、睡眠障害、それに伴う覚醒障害、消化器疾患、自律神経症状・情緒障害及び循環器疾患があるとしている(甲50)。
(オ)
 産業医科大学の平成10年度労働省委託研究としての深夜業の健康影響に関する調査研究によれば、深夜労働時間の減少による健康指標の改善傾向があること、深夜労働では睡眠障害、慢性疲労感、消化器疾患、循環器疾患等の影響が示唆されているが、それを裏付けるデータは血圧以外は認められなかった。その認められない原因としては、本調査では常夜勤就労期間や健康を害したため夜勤から外された作業者に関しての情報が得られていないことが影響している旨示している(甲70)。
(カ)
 旧労働省の「深夜業の就業環境、健康管理等の在り方に関する研究会」は、中間報告において、次の内容の報告をしている(乙11)。
 
a
 深夜業従業者には疲労の蓄積、睡眠不足、健康管理の困難さを訴えるものが多い。
 

 過度の深夜業を抑制し、健康確保、社会生活の維持等を図るために考慮すべき事項として次の事項を指摘している。
 
(a)
 深夜業については生体リズムとの関係等から日中の勤務より身体に対する負担が大きくなる可能性があるため労働条件を含めた就業環境への一定の配慮が必要である。
 
(b)
 昼間勤務より過重な労働とならないように配慮するとともに、労働者の精神的な面にも配慮するなど労働者の心身に過度の負担が生じないよう配慮した適切な作業管理の視点が必要である。
 
(c)
 生体リズムへの影響や睡眠時間の確保の観点から、深夜勤務時間及び回数が過度にわたらないように配慮することが必要である。
 
(d)
 疲労回復のために、深夜勤務時に十分な休憩時間を付与することや場合により仮眠時間を設けることが望ましい。
 
(e)
 深夜交替制勤務においては、健康維持・確保、家庭生活、社会生活との調和を考慮することが必要であり、深夜勤務が過度に連続しないよう配慮することが必要である。
(キ)
 佐々木は、(1)夜勤後の睡眠持続時間は短い、その理由は、夜勤後の睡眠相である昼間時刻帯は、サーカディアンリズムから見て睡眠には不適切な体温上昇期にあること、昼間の生活音、環境温、太陽光が睡眠の質に影響を及ぼすことにある、(2)夜勤中の仮眠の効果としては、リズム−バランス維持効果(人間の有する昼間から夕方に活動が最も活発になり、夜間から早朝にかけて最も鈍くなる昼間志向型の約24時間のリズムを維持する。)、覚醒水準維持効果(勤務中の仮眠によって、蓄積した疲労の回復を促す効果である疲労キャンセル効果と夜間志向型リズムに適応しようとする心身を昼間志向型に維持させ、昼間志向型に見られる早朝時刻帯に心身の機能が亢進する現象による覚醒水準亢進機能に期待するリズムセット効果からなる。)及び生活時間創出効果がある、(3)夜勤後の昼間睡眠の持続時間は4、5時間と短く、疲労回復に必要な深睡眠が夜間睡眠に比べ少なく、そのため夜勤による疲労が慢性化しやすくなるが、昼間睡眠にもその慢性化の防止につき一定の効果はあり、仮眠をとって昼間睡眠に疲労回復を期待するにはある程度まとまった仮眠時間と深睡眠を確保する必要がある、(4)慢性疲労をおこす睡眠不足の原因となる労働環境には夜勤交替勤務が含まれるとしている(甲87の7、10ないし12、甲88)。
(ク)
 厚生労働省の平成13年労働環境調査によると、深夜業務に従事する労働者の中で、深夜業に就く前と比較して体調の変化があったとする労働者の割合は36.1%であり、深夜業務に従事している期間が長いほど、体調の変化があったとする労働者の割合が高く、また、深夜業務についてから医師から診断されたものがあるとする労働者の割合は17.3%であり、胃腸病(51.0%)、高血圧症疾患(22.6%)、睡眠障害(18.8%)と診断された労働者の割合が高かった(甲64)。

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