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エ
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クリーンルームに関する医学的見解 |
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(ア)
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クリーンルームにおける作業は、ウェアの不便さ、立ち作業の多さ、閉鎖圧迫感等のクリーンルーム特有のストレッサーにより、ストレス反応を引き起こしやすいという報告がある(甲32)。 |
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(イ)
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中央労働災害防止協会の平成2年9月の調査研究委員会報告には、クリーンルームの安全衛生管理につき、次の指摘をしている(甲113)。
クリーンルームにおける作業は、保護着、食事時、休憩時、用便時等といった生活的要求に対して他の職場の作業者と比較すると格段に多方面の規制・制限が厳しく課され、多くが単独作業であるなど、一般作業環境からは隔絶された特殊な労働環境下におかれており、作業者個人のパーソナリティ、知能、技能を背景にして、一つには、作業性から来るストレスの増大、人間疎外、没個性化、空間制限、時間拘束といった多彩な要因があり、また、精神・身体的側面としては、過緊張、孤独、不安、情緒不安定、行動抑制、強迫観念といった自律神経系への影響を含めた精神活動面への複雑な影響が顕在化する可能性があり、必然的に一般作業者とは異質的な作業環境、作業形態、作業体制、職場人間関係等の条件におかれ、特異的な精神・心理状態を余儀なくされやすい。 |
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オ
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照明に関する医学的見解等
ソニー株式会社厚木テクノロジーセンター健康開発センターの内藤博光、山川和夫及び城戸尚治は、紫外光を用いてIC回路パターンをウェハに写真製版するというIC製造技術工程において、感光を防ぐために紫外線をカットした安全光(イエローランプ)は、非常に輝度が高く、その環境下で作業を続けると、輝度による色順応や眼精疲労を引き起こし、これが遠因となって肩こりや精神的ストレスが起こることが考えられるとしている。 |
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そこで、前記1の認定事実をもとに、前記2(1)の認定事実に照らし、亡勇士の業務の過重性を検討する。 |
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ア
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亡勇士の勤務時間・内容 |
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(ア)
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前記認定事実によれば、亡勇士は、被告ネクスター入社から約1年2か月後の平成11年1月14日までは社内検査に従事し、その期間中には入社後4か月後の平成10年3月及び同年12月には台湾で、同年7月には宮城県で納入検査を行っており、平成11年1月14日から同年2月7日までソフト検査実習に従事し、その後、社内検査を担当していた(この点、原告は、亡勇士が一般検査とソフト検査を掛け持ちしていた時期がある旨主張しているが、本件証拠上、原告主張のように亡勇士が仕事の掛け持ちをしていた事実は認めることができない。)。
以上の事実及び前記認定事実によると、亡勇士は概ね6か月間の実習期間を要するとされている納入検査を入社4か月後(年末年始を含む。)に担当させられており、そのことによる通常以上の身体的精神的負荷がなかったとはいえない。 |
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(イ)
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前記認定事実によれば、亡勇士の時間外労働・休日労働は、被告ネクスター入社から平成11年2月までの約1年6か月間で434時間半であり、そのうち一番多かった月は平成10年7月の103時間、その次は平成11年1月の77時間であった。そして、平成10年7月は下記のような出張が含まれ、平成11年1月には下記のような15日間連続勤務が含まれており、かつ、平成10年7月及び平成11年1月のいずれの月も昼夜交替勤務が含まれており、亡勇士にとって、両月の業務には通常以上の身体的精神的負荷があったといえる。 |
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(ウ)
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前記認定事実によれば、亡勇士は、被告ネクスター入社から平成11年2月までの約1年6か月間で、次のように、納入検査のための出張に3度行き、いずれも過度の時間外労働・休日労働を含んでおり、さらに、そのうち2度は海外出張であったことからすると、亡勇士にとって通常以上の身体的精神的負荷があったといえる。 |
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a
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平成10年3月10日から同月24日までの台湾出張
時間外労働・休日労働 46時間
(休日労働は4日間、連続7日勤務後1日休日を取りさらに5日間連続勤務) |
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b
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平成10年7月20日から同年8月4日までの宮城県出張
時間外労働・休日労働 110時間
(休日労働は9日間、連続8日勤務後1日休日を取りさらに5日間連続勤務) |
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c
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平成10年12月2日から同月5日までの台湾出張
時間外労働・休日労働 19時間半
(休日労働は2日間) |
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(エ)
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前記認定事実によれば、亡勇士は、ソフト検査実習を平成11年1月14日から開始し、被告ニコン側の都合による4日間の休暇を含めた5日間の休暇の後、新型ステッパーARXBの納期のため(G及びH証言)、同月24日から同年2月7日までの15日間連続して勤務した。
その勤務時間は、別紙就業週報記載のとおりであり、15日間連続勤務中の時間外労働・休日勤務は7日間であり、前記期間中の1日の平均労働時間は役11時間というものであった。
さらに、被告ニコンは、亡勇士のソフト検査実習における指導員をS、T、U及びHに担当させていたが、同年1月17日、同月27日及び同年2月7日は前記4名のいずれも出勤しておらず、また、同年1月14日から同月16日、同月30日、同年2月1日及び同月6日は、前記4名は亡勇士よりも先に退社していた(甲79、乙6の7のタ・レ、乙57、G証言)。
以上のような、連続長時間勤務、初めてのソフト検査実習及び指導員の不充分なサポートに照らすと、亡勇士にとって、前期15日間連続勤務は過度の身体的精神的負担があったといい得る。 |
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イ
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昼夜交替勤務 |
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(ア)
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前記認定事実によれば、亡勇士は平成9年12月15日より、本件交替勤務と同様の勤務時間・シフトの昼夜交替勤務を開始し、平成11年2月末までに納入検査の出張等のため6度夜勤を昼勤にシフト変更されているが、基本的には前記昼夜交替勤務を続けていた。 |
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(イ)
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前記認定事実によれば、亡勇士が勤務していた昼夜交替勤務は、本件交替勤務と同様の休憩時間であり、夜勤の場合の休憩時間等は、昼勤と同じ時間で、午前0時から午前1時までの1時間、午前5時30分から同時45分及び午前3時から同時10分までの10分であり、時間的にみて、仮眠をとれる状態にあったといえず、亡勇士も夜勤中に仮眠をとることはできなかったと推認される(被告ニコンが主張するように、別紙図面記載のクラブハウス内に仮眠室が設けてあることは認められる(乙24)。しかし、亡勇士が勤務していた同図面記載の「6号館」のクリーンルームから前記仮眠室に行くには、クリーンルーム退室に当たってクリーン着(防塵服)等を脱ぎ、守衛室に連絡して建物のセキュリティシステムを解除してもらい、かつ、守衛室から仮眠室の鍵を受取り(乙60)、さらに、上記「6号館」から外に出て、仮眠室のある建物に行かなければならない。さらに、前記クリーンルーム内に戻るために、同様に上記仮眠室のある建物の外に出て、上記「6号館」に戻り、再度、クリーン着(防塵服)等を着なければならず、クリーンルームから仮眠室に行くには徒歩5分を要し、クリーン着(防塵服)等の着脱衣には2分程度要するとのG証言に照らすと、前記休憩時間の中で最長の1時間の休憩を使っても、仮眠を取るということは事実上不可能に近いといわざるを得ない。)。 |
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(ウ)
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前記認定事実によれば、亡勇士は、夜勤時に、平成9年12月には15日と28日の各1時間、平成10年2月には19日に1時間半、同年3月には2日に1時間半、3日に1時間、同年5月には18日及び29日に各1時間半、同年6月には18日及び20日に各1時間半、同年が7月には9日に1時間、同年8月には27日及び28日に各1時間、同年12月には11日及び12日に各1時間半、10日に1時間、時間外労働を行っている。 |
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(エ)
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以上によれば、亡勇士が勤務した本件交替勤務と同様の勤務時間・シフトの昼夜交替勤務では、仮眠はできず、夜勤時に時間外労働がなされている(特に亡勇士が自殺する約3か月前の平成10年12月には3日間連続で夜勤時に時間外労働をしている。)ところ、前記認定の昼夜交替勤務・深夜勤務に関する医学的見解等のとおり、昼夜交替勤務・深夜勤務について、(1)夜間睡眠と比較して昼間睡眠の量・質が低いこと、夜勤慣れがないこと等により、睡眠障害・消化器疾患等が生じ、慢性疲労が生じていること、(2)仮眠には前記障害等に対し効果がある等と指摘され、(3)夜勤時の時間外労働をできる限り制限すべきである、(4)各夜勤間の間隔時間を十分に取るべきである、(5)夜勤中には仮眠を取るようにすべき旨の指摘もなされていることに照らすと、前記亡勇士の昼夜交替勤務は通常以上の身体的精神的負担があったといえる〔この点、V医師(以下「V医師」という。)は、陳述書(乙67)のおいて、本件交替勤務には問題がない旨指摘しているが、その指摘においては仮眠についての前記のような検討はなく、また、亡勇士の場合のような夜勤時の時間外労働については検討されていないので、前記陳述書によっても前記認定は左右されない。〕。 |
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(オ)
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被告ニコンは、本件交替勤務は、3組2交替制を採用し、サーカディアンリズムの乱れをできるだけ抑制し、勤務者への負担をできるだけ軽減するよう、(1)夜勤回数を連続3日に抑制するとともに、月間夜勤回数を最大9回とし、通常勤務者よりも一日の勤務時間を長くして(ただし、休憩時間とリフレッシュタイムにより、連続勤務時間を3時間30分、2時間、2時間20分、1時間45分として、長時間可を回避している。)、休日日数を増加させ、(2)夜勤明けには3日ないし4日の連続した休日を設け、夜勤と夜勤との間は7日ないし8日と十分な間隔をあけ、(3)年間所定労働時間を通常勤務者と比較して短縮するという配慮のもとに、被告ニコンが世間動向及び専門文献等を十分調査・検討した上で、被告ニコンの労働組合との協議を経て、導入されたものである、(4)日本電機工業会、通信工業連盟及び電機連合の三者による企画委員会が、電機製造業の昼夜交替制勤務について策定したガイドライン(乙12)につき、十分配慮して本件交替勤務を導入している、さらに、(5)本件交替勤務の導入の際に、本件製作所内のクラブハウス2階に仮眠室を設けており、また、クリーンルームの出入口に隣接した区画にリフレッシュルームを設けて、テーブル、ソファ、清涼飲料水の自動販売機等を配備していたと主張し、その業務過重性を否定する。
確かに、3組2交替制は、2組2交替制に比べると夜勤と夜勤の間をあけ、あるいは、休日を増やすなど、合理的な配慮がなされているものといえる。
しかし、前記のとおり、本件交替勤務自体は3日間夜勤が連続する際のその夜勤間の間隔時間は13時間しかなく、また、亡勇士は本件交替勤務に沿った昼夜交替勤務において夜勤時に時間外労働をしており、被告ニコンが主張する本件勤務の導入における事実が認められるとしても、亡勇士の身体的精神的負担に関する前記認定を覆すとはいえない。
さらに、本件製作所内のクラブハウス2階に仮眠室を設けており、また、クリーンルームの出入口に隣接した区画にリフレッシュルームを設け、テーブル、ソファ、清涼飲料水の自動販売機等を配備していたとしても、前記認定のとおり、仮眠をとれる状態にあったといえず、また、前記他の設備によって前記認定を覆すに足りる身体的精神的負担の軽減があったとまではいえないので、前記被告ニコンの主張は採用できない。 |
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(カ)
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なお、原告は、昼夜交替勤務シフトと昼勤シフトとを13回にもわたって不規則に交替させられており、このことも亡勇士にとって大いに負担であったと主張している。
しかし、前記昼夜交替勤務・深夜勤務に関する医学的見解等における夜勤慣れはなく、夜勤の連続は避け、できるだけ早期に昼勤に交替すべきである旨の指摘に照らせば、昼夜交替勤務から昼勤に交替させることによって身体的精神的負担を増大させるとはいえないので、前記原告の主張をそのまま採用することはできない。 |