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労働科学研究所論文
労働科学研究所が出版した「勤務時間制・交代制」(甲51、以下「労働科学研究所論文」という)には、交替勤務の影響について以下のように述べられている。
「夜勤・交代勤務によって労働者にどんな影響が及ぶのであろうか。まず、この点から考えたい。交代勤務によって変則な生活を反復すれば、生活の全域にわたって多層な影響が及ぶことが知られているが、少なくとも
(1) 生理的なリズムの乱れ
(2) 疲労・健康低下
(3) 家庭・社会生活の阻害
の3つの影響をまとめてとりあげることが重要である。この点を考慮しながらもう少し具体的に、主だった影響をあげると、
(1) 夜寝ないで働くこと;
人間には約24時間の生理的な昼夜リズムがあり、夜間は休息(睡眠)期にあたる。夜寝ないで働けば生理機能の大きな低下に抗していかなければならず、生理リズムは乱れる。当然体調不良の原因となる。また、夜勤においては疲労は大きく進むし、注意能力も低下して作業の質を悪くする点に留意しなくてはならない。
(2) 昼間睡眠と睡眠調整;
徹夜で働けば、昼間寝ることになる。しかし、生理リズムの上からはすでに活動期に当たる。昼間、寝にくいのは睡眠環境が悪い(うるさい、明るい、暑いなど)こととあわせて、この生理リズムのせいである。最近の睡眠脳波研究によってでも、昼間では寝つくまでに時間(入眠潜時)を要したり、深い眠り(徐波睡眠)がでにくかったり、途中覚醒が多いなど、夜間睡眠と比べて睡眠の質が悪いことがわかってきた。また、昼眠は持続時間も短い。つまり、夜勤者の睡眠は質・量ともに不足がちとなる。昼眠だけでは夜勤疲労の回復は不十分に終わる。
この点について夜勤者の生活をよく観察すると、睡眠不足を防ぐために、こまめに寝たり、睡眠のまとめどりをすることに気づく。こうした睡眠調整のさまと、とくに勤務と睡眠との関連をよくみて、勤務編成を工夫する必要がある。
(3) 夜勤慣れの不成立;
大事な点は、夜勤生活を何日繰り返しても生理的な逆転(生理的な適応)は起こらないことである。夜勤を続けるかぎり生理的な乱れも続く。つまり、夜勤慣れは成立しないのである。この重要な知見にもとづいて、夜勤・交代勤務の基本編成を決めていく必要がある。
(4) 夜勤疲労は慢性疲労である;
夜勤によって疲労が大きく進み、その後の疲労回復が不十分に終わる。こんな状態を繰り返せば、容易に慢性疲労に陥る。夜勤者のからだはいつもだるく疲れており、また彼らの生活は、休息・睡眠を優先したものにならざるをえない。からだの面からみても、生活自体が不活性なものとなる点に特徴がある。
(5) 夜勤者のかかりやすい病気;
疲労が慢性化すれば、病気に対する抵抗性も悪くなるから、多様な疾病が交代勤務者に起こる。事実、夜勤者に免疫機能の低下を認めたとの報告もある。全般的な健康低下や活力低下のほか、女性では妊娠・出産機能の低下が懸念される。かぜをひきやすかったり、直りにくいという訴えもよく聞く。また、夜勤者の胃腸障害はよく知られている。このほか、夜勤・交代勤務にともなう過労によって、他の疾病を誘発したり、増悪させる危険が指摘されている。この点、たとえば高血圧者や糖尿病者の作業管理・保健管理は非常に重要である。
(6) 家族への負担;
夜勤生活を送れば、本来の生活リズムから大きく逸脱する。この通常生活からのズレのため二交代勤務者本人は家庭・社会生活上、不利な影響を受けるが、同時に家族が背負いこむ負担も小さくはない。深夜不在による家庭内の安全問題のほか、夫婦関係に及ぼす長期の影響、子供とのすれちがいによる精神発達への影響などの検討が最小限いる。
(7) 夜勤者の社会的孤立;
夜勤・交代勤務者の場合、仕事以外のつきあいやつながりがうすくなりがちとなる。近所づきあいや地域生活は疎遠となり、社会参加もままならない。こうした孤立化について配慮していく必要がある。
交代勤務者は自由時間をもっているようにもみえるが、実際はうまく使えていないようである。それは一般の社会生活との時間ズレのためにしたくともできない構造と、からだに慢性疲労があってやろうとしてやりきれない構造があるから、この両面をみなくてはならない。」(同154-156頁)
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篠田山田論文
篠田毅・山田嘉昭による「夜勤-交替制勤務」(甲50、以下「篠田山田論文」という)は、以下のように述べる。
「佐々木は、交替制勤務による健康障害は、勤務時間帯の変化による「生活時間と生体リズムとの外的脱同調、および各生体リズム間の内的脱同調」、すなわちリズム障害という身体的ストレスに基づく病態であるという。反生理的な夜業昼眠の生活によって疲労は蓄積し、夜勤者は半健康状態、疾病準備状態にあるといえる。交替制勤務による(1)睡眠障害は、生体の概日リズムと夜業昼眠による生活時間との時間差によって生じるサーカディアンリズム睡眠障害circadian
rhythm sleep disorderである。夜勤者の昼間睡眠は、入眠困難、中途覚醒増加、睡眠時間短縮、熟睡感低下として体験される。ポリグラムでも、睡眠段階2およびレム睡眠出現量の減少、最初のレム睡眠潜時の短縮が観察される。睡眠障害は眠気、作業能力低下、疲労感増大などの(2)覚醒障害を伴う。また(3)消化器疾患、(4)自律神経症状・情緒障害、(5)女性では月経・妊娠・分娩・出産児の異常、(6)循環器疾患も重要である。頻回夜勤が誘引となって発現する循環器疾患による突然死や急性死が、近年過労死として問題になっている。交替制勤務の有害な影響の第2は、家庭生活や社会生活の障害である。特に連続操業型の場合、家族との生活のズレによる配偶者や子供とのすれ違い、社会的活動への参加制限による社会的孤立が問題になる。第3は、労働安全衛生上の問題で、夜勤者では労災事故の頻度が高くかつ重症になりやすい。」(同400頁)
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酒井論文
夜勤交代制(甲107)は、以下のように述べる。
「交代勤務に従事することによって労働者が影響を受けるのは、第1に、夜勤に就労するためである。夜勤は通常の睡眠期に相当する深夜や早朝帯に、起きて働くため、心身に多面的な影響が及ぶことはよく知られている。第2に、睡眠期に寝ないで働けば、夜勤の疲労は、夜勤後にとる昼間の睡眠によって回復を図ることになる。ところが、この昼寝の疲労回復効果が質と量の両面において不十分に終わる。昼寝は、夜眠のように十分な疲労の回復効果をもたないことがわかってきた。第3は、交代勤務に就労すれば、勤務に応じて生活フェーズが大幅なズレを起こすために、社会生活上の不利をこうむるだけでなく、家族生活や社会生活で起こるこのズレを修正しようとする調整努力が、結果的に負担を強めてしまう関係をよくみておくことも大事な点である。
こうした事実をみても交代勤務のもつリスクを検討する意義は大きい。交代勤務のつらさは、夜勤期において、夜中に起きて働くことにある。ヒトは、約24時間の生理的な昼夜リズムの支配をうけていて、昼間が活動期、夜は休息期(睡眠期)にあたる。ところが、休息期にあたる深夜や早朝帯に起きて働くと、ヒトがもつ生理的な昼夜リズムの影響をうけて、生理機能の大きな低下が起こる。そのために、深夜や早朝帯では、昼間と同じ条件で仕事を行っても、疲労は大きくすすみ、心身に多面の影響があらわれる。とくに夜勤期においては眠気とだるさや、注意集中が困難となるような疲労症状が顕著となる。さらに、作業中、眠気に繰り返しアタックされることや、パフォーマンスの低下が起こりやすいことも夜勤に共通する特徴である。こうした夜勤に伴って避けがたく起こる易疲労状態、眠気のアタック、パフォーマンスの低下などは、いずれも安全リスクに直結することが注目される。操縦・制御・運転や監視などの業務を夜間に遂行する際に、特別の安全対策が必要となる理由はここにある。
また、夜勤疲労の回復は、昼間の睡眠によって図ることになるが、この昼眠の疲労回復力がもう1つの問題となる。最近の睡眠研究によれば、昼眠だけでは夜勤疲労の回復には質と量の両面から不十分なことがわかってきた。昼眠は夜眠と比べて、深睡眠(脳波中の周波数の遅い成分が主体となるために徐波睡眠ともいう)が出現しにくいことや、睡眠の途中で目覚めてしまうことなどが重なり、睡眠時間も短くなりやすい。昼眠の疲労回復力は夜眠と比べて明らかに劣る。端的にいえば、夜勤で疲労が大きくすすみ、昼眠での回復が遅れるのである。こうしたことが繰り返されれば、早晩、疲労の蓄積がすすみ、慢性疲労状態の形成につながっていく可能性もある。健康リスクが疑われる。」
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平成13年労働環境調査
平成13年労働環境調査(甲64)によると、深夜業務従事後の体調変化について、総数で36.1%が体調の悪化を回答している(第24表)。
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小括
このように夜勤・交替勤務者の安全衛生に関する諸文献は、夜勤によって、(1)生体リズムの位相逆転により諸生理機能の乱れが日常的に反復されること、(2)生体リズムの作用と環境刺激により睡眠の量・質が低下して睡眠不足となること、(3)食事時刻が不整となることなどから、労働者の疲労の蓄積が進み慢性疲労状態が形成されて、心身に悪影響が生じることを明らかにしている。
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