『原告最終準備書面』


 
勇士の2週間ごとの勤務時間、夜勤時間数
 
期間
2週間合計
1週間平均
40時間超
1
1998.7.1-14
84.5時間
42.25時間
2.25時間 (1)
2
7.15-7.28
171時間
85.5時間
42.75時間 (2)
3
7.29-8.11
91.5時間
47.75時間*
7.75時間 (3)
4
8.12-8.25
82時間
41時間
-
5
8.26-9.8
97.5時間
48.75時間
8.75時間 (4)
6
9.9-9.22
79.5時間
39.75時間
-
7
9.23-10.6
102時間
51時間
11時間 (5)
8
10.7-10.20
103時間
50時間
10時間 (6)
9
10.21-11.3
67時間
33.5時間
-
10
11.4-11.17
99.5時間
49.75時間
9.75時間 (7
11
11.18-12.1
90時間
45時間
5時間 (8)
12
12.2-12.15
70時間
35時間**
-
13
12.16-12.29
108時間
54時間
14時間 (9)
14
12.30-1999.1.12
59時間
29.5時間
-
15
1999.1.13-1.26
81.5時間
40.75時間
0.75時間 (10)
16
1.27-2.9
151.5時間
75.75時間
35.75時間 (11)
17
2.10-2.23
86.5時間
43.25時間
3.25時間 (12)
 
 同表の左から4番目の「40時間超」の欄(上表一番右の欄)には2週間の平均勤務時間のうち40時間(1週間)を超過した部分の時間が記載されている。これから明らかなように、勇士勤務中の全17期間のうち、12期間(70.6%)で勤務時間が週平均40時間を越えており、基準(1)から大きく逸脱している。
 特に二交替勤務者には影響を及ぼす可能性が高いと考えられる、週5時間以上(一日1時間以上)の超過があったのは、全17期間のうち、9期間 (全期間の52.9%)であった(表1の赤字部分・上表の網掛け部分。この部分は2週間の平均勤務時間が週5時間以上の超過があった期間を示している)。これだけとってみても、本人の勤務が、交替勤務者にとって過重なものであったことを表している。

  なお、上記では2週間周期で勇士の勤務時間を評価している。その理由は、(1)産業衛生学会意見書は平均算出期間を2週間としていること、(2)被告ニコンにおける交替制勤務シフトの原則は3週間周期であるが、それでは疲労回復の程度を判断するには長すぎるが、1週間ごとの労働時間の評価では勇士の3週間周期の勤務シフトとの兼ね合いで、ばらつきが大きくなりすぎるからである。

 また、基準(1)では、時間外労働は原則として禁止され、例外的に行う場合でも、年間150時間程度以下とすべきであるとする。ところが、勇士の労働時間は年間2166時間であり、所定労働時間を294時間も超過しており、基準(1)をこの点でも大きく逸脱している

(2)
深夜勤務の労働時間は上限1日8時間(基準(3))
 基準(3)では、深夜業を含む労働時間は、1日につき8時間を限度とするとされている。
 しかし、勇士の夜勤における労働時間は、拘束11時間、実働9時間45分と設定されている。したがって、勇士の労働時間は、基準(3)が定める1日8時間という限度から、拘束時間では3時間の超過、実働時間では1時間45分の超過となり、いずれも大幅に8時間の上限を超過している。このように、勇士の勤務シフトは根本的に基準(3)の要件を満たしていない。
 なお、この「1日8時間」の「1日」とは「暦日」(午前0時から午後12時まで)を意味するのではなく、二暦日にまたがるような継続勤務については、その実態に照らし、暦日を異にしても一勤務として扱うべきである。旧労働省も、所定労働時間を規定する労働基準法第32条の解釈に関し、「継続勤務が二暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合であっても一勤務として取り扱い、当該勤務は始業時間の属する日の労働として、当該日の『1日』の労働とすること」とし(昭63・1・1基発1号。なお、昭23・7・5基発968号及び昭42・12・27基収5675号も同旨)、また、ILO夜業勧告も「夜業に従事するいかなる24時間においても8時間を超えるべきではない」としている。したがって、、基準(3)における「1日」とは、午後12時を超えて継続勤務した場合には始業時間の属する日の労働として当該日の『1日』の労働とするのが妥当であり、基準(3)は、ILO夜業勧告と同一の意味を有するものとして捉えるべきである。
(3)
仮眠時間の確保(基準(5))
 基準(5)は、拘束8時間について少なくとも連続2時間以上の仮眠時間を確保することが望ましいとする。しかし、勇士には仮眠時間は与えられておらず、仮眠することはなかった。
 被告らは、熊谷製作所内の敷地内のクラブハウスに仮眠室が設けられていたと主張する。しかし、休憩時間は、1時間及び15分の2回の休憩であり、かかる短い休憩時間では、基準(5)が要求する連続2時間の仮眠を取ることはできないことは勿論のこと、仮眠を取ること自体が困難である。しかも、仮眠室は別棟に設けられ、作業場所から遠い場所にあり(甲78の1)、利用可能な状況ではなかった。
 F証人(※当時の同僚。ネクスター社員)によると、夜間は入口が、支給されているカードキーでは開かなくなってしまい、工場から一度出ると戻ることができない(F証言速記録20頁)。G証人(※ニコンの上司)も、その陳述書において「午前11時から翌朝午前6時まではセキュリティーシステムの自動ロック時間帯であり、外部検査員に限らず正社員もカードによる解除ができなくなってしまいます。」と陳述する(乙60、12頁)。このような状態では、わざわざ仮眠室を利用する者はいるはずがない。
 G証人も、自らは仮眠室を利用したことがないことを証言している(G証言速記録41頁)。
 また、現に勇士が利用したという事実も無い。
(4)
深夜勤務の連続回数(基準(6))
 基準(6)は、深夜勤務は原則毎回1晩のみにとどめるようにし、やむをえない場合でも2〜3夜の連続にとどめるべきであるとする。
 しかし、勇士の夜勤のシフトは、3連続夜勤するシフトが設定されている。その結果、基準Eが要求する原則「毎回1晩」には、程遠いものとなっている。この3日連続夜勤、それも拘束11時間が繰り返されることによって、勇士には、疲労が蓄積し、慢性疲労・過労状態へと至ったのである。
 さらに、勇士の勤務形態について、一般に「深夜勤務」とされる午後10時から午前5時までの間に働いているものを「夜勤」とすると、通常のシフトの3日連続夜勤以外に、日勤に引き続き残業する形での夜勤がある。そのような形態での勤務は、平成10年7月21日〜25日、7月27日、7月30日、平成11年1月12日、1月14日、1月15日、1月25日、1月27日、1月30日、2月1日、2月3日、2月5日、2月6日の合計17日間である(被告ニコン第6準備書面「別紙5」参照)。これらの勤務は、通常の二交替勤務のシフトのみでさえ過重な負担となっていた労働負荷を、更に増強したと考えられる。
(5)
各勤務時間の間隔(基準(7))
 基準(7)は、各勤務時間の間隔は原則として16時間以上(深夜勤務後には24時間以上の勤務間隔)とし、12時間以下となることは「厳に避けなければならない」とする。
 しかし、勇士の各勤務時間の間隔をみると、勇士の通常の夜勤シフトは3日連続で、夜勤1日目と2日目、2日目と3日目の間隔が13時間となっており、「深夜勤務後に24時間以上の勤務間隔を設けるべき」とする本基準から大幅に逸脱している。
 甲91に添付の表2 「上段勇士氏の夜勤の間隔と、1ヶ月の夜勤日数」(甲91)は、勇士の夜勤間隔を表にしたものであり、その内容は下記の通りである。
     

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