『原告最終準備書面』


 
上段勇士氏の夜勤の間隔と、1ヶ月の夜勤日数(1998.7-1999.2)
この資料は添付のグラフ被告株式会社ニコン第6準備書面の付表より作成した
夜勤明けの日 次の勤務前の間隔 1ヶ月夜勤回数 夜勤明け後の勤務間隔
24時間未満の夜勤回数
勤務間隔12時間以下の夜勤回数
1998.7.2
73時間
 
 
 
7.10
12時間
 
7.11
12.5時間
 
7.12
72時間
 
7.22
8時間
 
7.23
7.5時間
 
7.24
7.5時間
 
7.25
7.5時間
 
7.26
8.5時間
 
7.27
9.5時間
 
7.30
10.5時間
11回
9回 81.8%
8回 72.7%
 
 
 
 
 
8.18
13時間
 
8.19
13時間
 
8.20
73時間
 
8.28
12時間
 
8.29
12時間
 
8.30
73時間
6回
4回 66.7%
2回 33.3%
 
 
 
 
 
9.8
12.5時間
 
9.9
13時間
 
9.10
73時間
3回
2回 66.7%
0回
10月夜勤なし
 
0回
0回
0回
11.10
13時間
 
 
 
11.11
13時間
 
11.12
97時間
 
11.20
13時間
 
11.21
13時間
 
11.22
70.5時間
6回
4回 66.7%
0回
 
 
 
 
 
12.11
12時間
 
12.12
11.5時間
 
12.13
69.5時間
 
12.22
13時間
 
12.23
13時間
 
12.24
97時間
6回
4回 66.7%
2回 33.3%
 
 
 
 
 
1999.1.13
32時間
 
1.14
9.5時間
 
1.15
9.5時間
 
1.25
10時間
 
1.27
9.5時間
 
1.30
8.5時間
6回
5回 83.3%
5回 83.3%
 
 
  
 
 
2.1
9時間
 
2.4
8時間
 
2.5
9.5時間
 
2.7
8時間
 
2.16
13時間
 
2.17
13時間
 
2.18
73時間
 
2.25
-
8回
6回 75.0%
4回 50.0%
 
合計
46回
36回 73.9%
21回 45.7%

 この表を見てもわかるように、平成10年7月1日〜平成11年2月28日までの間で、夜勤明けの日から次の勤務までの間隔が、産業衛生学会基準が要求する24時間以上となっているのは、夜勤46回(間隔は45回)のうち11回のみであり、残り34回73.9%は24時間未満の間隔であった。
 しかも、基準(7)では「12時間以下となることは厳に避けなければならない」とされ、12時間以下の夜勤間隔を避けるべきことが厳しく要求されているにもかかわらず、間隔が12時間以下の夜勤となっているものも21回(45.7%)も存在していた。
(6)
年間休日数(基準(9))
 基準(9)は、年次有給休暇を除く年間休日数は、平均週休2日に国民の祝祭日を加えた日数を常日勤者なみに確保するとする。
 しかし、勇士の休日については、平成10年7月20日〜7月28日の宮城県出張納入検査の際の9日連続勤務と、平成11年1月24日〜2月7日の15日間連続勤務では、かかる休日は付与されていない。交替勤務者は慢性疲労状態に陥りやすいため、たとえ頻度が少なくても、このような長期連続勤務は、疲労回復・健康管理上好ましくなく厳に避けるべきであり、業務を過重にする要因となる。
(7)
小  括
 以上のとおり、勇士の交替制勤務については、平均労働時間が、週40時間(基準(1))を超えていること、平均労働時間が1日8時間を超えていること(基準(3))、仮眠時間が確保されていないこと(基準(5))、深夜勤務も連続3回となっていること(基準(6))、各勤務時間との間隔が短いこと(基準(7))、休日も常日勤者なみに確保されないことがあったこと(基準(9))が明らかであり、産業医学会基準を幾重にも違反して、大きく逸脱しており、過重性を有することは明らかである。
二交替制勤務に従事する者の体験談
(1)
勇士の体験談
 勇士は、二交替制勤務の影響について、「夜勤は結構体にくるね。睡眠しっかりとらないといけないからご飯いつも通りの時間帯には食べられないんだ。寝るって言っても、昼間だから周りがうるさいからね。いろんな声が聞こえてなかなかうまくは眠れない。リズムが狂っちゃって、ちょっと胃の調子が悪くなっちゃった。トレーニングも出来ないよ。シフト表は前もって出ているから、これに合わせて飯の時間とかトレーニングする時間とか、こっちもシフト体制作るよ。献立も工夫しなきゃ。手軽で栄養つくメニューとかも教えてね。」「仕事の拘束時間が長いので、帰宅してのんびりできない。大急ぎで風呂・食事を済ませて眠らないと、次の出勤が来てしまう。」「食休みもとらないで眠るので、朝、胃の調子が悪い。」という話をしていた(甲61、6頁)。
 勇士は、二交替制勤務をしている際の睡眠について、「周りの音が聞こえるから、どうしても気がそっちにいっちゃって寝られないんだよね。」と述べていた(原告証言速記録8頁)。
 また、勇士は「二交替に戻った。なんか、妙に眠くてたまらない。朝起きても疲れが取れていないのが実感できるんだ。あちこちだるくて慢性疲労の感じだよ。今、休むとクビにされるかも知れないから頑張るしかない。」と、二交替制勤務による疲労の蓄積を訴えていた(甲61、15頁)。
(2)
その他夜勤従事者の体験談
 G証人も反対尋問において「昼勤の人より夜勤というのはある程度疲れると認識していてますんで」「やっぱり夜働くということで、昼間寝て夜働くということがありますんで、その辺で精神的なところでちょっと疲れがあるかなと思っています。」と証言する(G証言速記録34頁)。
 F証人は、二交替勤務による肉体的・精神的負荷について、以下のとおり証言する(F証言速記録3頁)。

代理人: 昼夜二交替で働くのと、普通に昼のみ働くのと、どういう点で肉体的、精神的に違ってくるもんなんですか。
F : 肉体的には、まず体のリズムが崩れてきます。
代理人: どういうふうに体のリズムが崩れてくるんですか。
F : まず、寝られなくなったり、起きられなくなって、起きにくくなったりという感じです。もう体内のリズムが崩れてしまうという感じですね。
代理人: リズムが狂ってくると、どういうことが起こってくるんですか。
F : まず体がぐったり疲れてても頭は冴えて寝れなくなったりとか、まあ体は起きていても意識朦朧とか、もう、ばらばらになりますね。
代理人: 精神的にはどういうふうな負担が増えたりするんですか。
F : 精神的には、やはり意識がはっきりしてない時間と、もう頭の中がはっきりし過ぎて寝れなくなっちゃったりとか、そういった感じになります。
代理人: そのときあなたの気分というのは、どういうような気分でしたか。
F : 気分としてはもう義務感だけで、無理やり寝なきゃ、無理やり起きなきゃ、という感じになりますね。
代理人: 物事に対する意欲とかやる気というのは、どんな感じになってきますか。
F : いや、もう、そんなことは考えている余裕というのは、もうほとんど、何と言うんでしょう、ないです。
代理人: 何でないんですか。
F : とにかく、まあ義務感だけで動いているという感じになります。
(中略)
代理人: 夜勤明けのときなどは、体の調子とか、あるいは、気分というのは、どのような感じでしたか。
F : 夜勤明けのときの体の調子は、まず疲れてます、体は本当に疲れてます。頭はもう、本当に疲れているんですが、まあ周りの人の目もありますし、その日にやらなきゃいけない、うちの中の仕事というのをやってしまわなきゃというので、無理やり起きて部屋の掃除なり洗濯なりをやるという感じになります。

なお、F証人は被告ニコンにおける勤務をきっかけとして、うつ病に罹患し、現在通院加療中である(F証言速記録10頁。甲77)。
(3)
被告ら証人の体験談
 G証人は、「夜勤に一番最初に就いたときには、やっぱり、夜勤のときなどは昼間とかに寝付きが悪いというのはありますが、1箇月を過ぎれば何らなく、交替勤務制に慣れて勤務ができるということを言ってました。」と証言する(G証言速記録4頁)。しかし、同証言は、G証人の経験に基づくものではなく伝聞の証言であるし、また、医学的知見として「夜勤慣れは成立しない」とされていること(甲51)と明らかに反し信用できない。
 さらに、H証人(※当時の同僚。バンテクノ社員)は、その陳述書で「昼夜交替勤務の感想は『すごく楽であった』というものです。昼夜交替勤務の場合休みが多く取れ、肉体的、精神的に疲労がたまることはありませんでした。」と陳述する(乙55、1頁)。このようなH証人の陳述書は、その内容があまりにも前述の夜勤に関する医学的知見に反するものであって、H証人の偏向性を示すものとなっており、陳述書自身の信用性を著しく貶めている。
 また、就業週報(乙57)に記載されたH証人の勤務体制を見ると、実は、H証人が実質的な二交替勤務に従事していたのは、平成9年の5月14日から同年7月2日までであって、1ヶ月半程度の短期間でしかない。しかも、その間の夜勤回数は合計15回でしかない。しかも、陳述書作成時から約6年前の勤務である。したがって、H証人の「夜勤はすごく楽でした。」という証言は、その夜勤経験の少なさからして、夜勤による肉体的・精神的負荷についての証言としては到底信用できない。
 H証人も、自らの夜勤の感想が上記の期間のみに基づいていることを認めている(H証言速記録(2)10-11頁)。
ま と め
 夜勤・交替勤務者の安全衛生に関する諸文献及び裁判例は、夜勤によって、(1)生体リズムの位相逆転により諸生理機能の乱れが日常的に反復されること、(2)生体リズムの作用と環境刺激により睡眠の量・質が低下して睡眠不足となること、(3)食事時刻が不整となることなどから、労働者の疲労の蓄積が進み慢性疲労状態が形成されるとする。
 この点、上記(1)(生体リズムの位相逆転)について、勇士は、「リズムが狂っちゃって、ちょっと胃の調子が悪くなっちゃった。」(甲61、6頁)と述べている。
 上記(2)(睡眠の量・質の低下)について、勇士は、「夜勤は結構体にくるね。睡眠しっかりとらないといけないからご飯いつも通りの時間帯には食べられないんだ。寝るって言っても、昼間だから周りがうるさいからね。いろんな声が聞こえてなかなかうまくは眠れない。」(甲61、6頁)、「周りの音が聞こえるから、どうしても気がそっちにいっちゃって寝られないんだよね。」(原告証言速記録8頁)、「睡眠4時間ぐらいだ。」(甲61、12頁)と述べている。
 上記(3)(食事時刻の不整)について、勇士は、「夜勤は結構体にくるね。睡眠しっかりとらないといけないからご飯いつも通りの時間帯には食べられないんだ。」、「仕事の拘束時間が長いので、帰宅してのんびりできない。大急ぎで風呂・食事を済ませて眠らないと、次の出勤が来てしまう。」「食休みもとらないで眠るので、朝、胃の調子が悪い。」(甲61、6頁)、「どうしても二交替勤務だと時間的に2食しか食べられないんだよね。」(甲61、9頁)という話をしていた。
 そして、疲労について、勇士は、「疲れが取れないまま次の日の出勤ていう感じでさ」(甲61、10頁)、「朝起きても疲れが取れていないのが実感できるんだ。あちこちだるくて慢性疲労の感じだよ。」と訴えていた(甲61、15頁)。
 このように、勇士は、夜勤に従事することにより、まさに文献・裁判例が指摘している夜勤の弊害により、慢性疲労となったものである。
     

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