『原告最終準備書面』


第5
シフトの頻繁な変更
不規則勤務の業務過重性
 不規則勤務が、疲労を蓄積させるものであることは、文献・裁判例でも肯認されている。不規則勤務は、肉体的・身体的な負荷を与えるものであり、業務が過重となる要因となるものである。厚生労働省チェックリスト(甲109の3)においても、不規則勤務は、疲労を蓄積させる要因として挙げられている。

 
文献
 「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」(甲52)は、「不規則な勤務は睡眠―覚醒のリズムを障害するため、不眠、睡眠障害、昼間の眠気などの愁訴を高め、生活リズムの悪化をもたらす場合が多いとする報告がある。また、通常の交替制勤務より不規則な交替制勤務の方が完全な休息が得られない可能性を指摘する報告がある。」(98頁)と述べている。

 
裁判例
 下記裁判例も、不規則勤務が疲労を蓄積させ、身体に悪影響をもたらすことを判示している。

 
(1)
電化興業事件判決
 電化興業事件判決は、「不規則な勤務は、睡眠と覚醒のリズムを障害するため、生活リズムの悪化をもたらす場合が多く、交替制・深夜勤務は、シフトの変更に伴い、生体リズムと生活リズムとの位相のずれを生じさせ、その修正の困難さから疲労がとれにくくなる場合があるとされており、勤務時間の変動や不規則さも、疲労の蓄積に悪影響を及ぼすことが指摘されている。」と判示する。

 
(2)
伊勢総合病院事件第一審判決
 伊勢総合病院事件第一審判決は、「看護業務の夜間勤務が,他の交代制勤務の夜間勤務と異なるのは,規則的に夜間勤務が組み込まれるのではなく,極めて不規則に夜間勤務が組み込まれる点であり,これが前記の人体固有の概日リズムに反し,身体の変調をきたす要因ともなりうるものである。」と判示している。

 
シフト変更
 勇士の勤務は頻繁にシフト変更がなされている。シフト変更がなされた理由については、G証人(※当時のニコン上司)は「シフトを変更する場合というのは、検査員が実際に納入に行く場合ですね。お客様の先に納入検査に行く場合にシフト変更することと、あと、納入検査に検査員が多数行った場合に、社内が手薄になりますんで、社内にいる検査員を昼勤に戻します。」と証言する(G証言速記録29頁)。顧客先で納入検査をする場合に、検査員を昼勤に戻すのは、顧客の工場の稼働時間に合わせるためであるG証言速記録30頁)。

  勇士が従事したシフトは以下の表のとおりである。
回数
期間
日数
勤務体系
1
H9/10/27〜H9/12/14
約2ヶ月
昼勤
2
H9/12/15〜H10/3/10
約3ヶ月
昼夜二交替
3
H10/3/11〜H10/3/25
5日
昼勤
4
H10/3/26〜H10/4/12
約2週間
昼夜二交替
5
H10/4/13〜H10/4/15
3日
昼勤
6
H10/4/16〜H10/7/19
約3ヶ月
昼夜二交替
7
H10/7/20〜H10/8/16
約2週間
昼勤
8
H10/8/17〜H10/9/16
約1ヶ月
昼夜二交替
9
H10/9/17〜H10/10/31
約1.5ヶ月
昼勤
10
H10/11/1〜H10/11/29
約1ヶ月
昼夜二交替
11
H10/11/30〜H10/12/8
約1週間
昼勤
12
H10/12/9〜H10/12/30
約3週間
昼夜二交替
13
H11/1/8〜H11/2/14
約1ヶ月
昼勤
14
H11/2/15〜H11/2/25
約2週間
昼夜二交替

交替制勤務それ自体が、通常人間が睡眠する時間帯である夜間に勤務するという点で、不規則な生活を強いる勤務であるが、上記表のとおり、勇士は、約1年半の間に合計14回のシフトに従事し(シフトの変更は13回)、このような頻繁なシフト変更により、勤務時間が変動して、より一層不規則な生活を強いられ、勇士の生活のリズムは乱されていった。
 勇士は、メモ(甲33)のような起床・睡眠の目標を立てていたが、前述の夜勤自体による生活リズムの乱れ・睡眠不足と、この不規則な勤務により、この目標どおりの生活を送ることはできなかった。
 1年半の間に13回ものシフト変更がされることは異常なほど多数であり、かかる頻繁なシフト変更は、過重性を有すると言わざるを得ない。
 なお、このような頻繁なシフト変更は、勇士のみに対してなされており、同僚は勇士ほど頻繁にシフト変更されていない。
 例えば、H証人(※当時の同僚。バンテクノ社員)は、「出張のときには、夜勤が昼勤に変わるということはありましたけれども、それも1回あったかどうかですよね。」と証言し(H証言速記録(2)4頁)、勇士のシフト変更が1年半の間に9回(被告ニコン主張)または13回(原告主張)されていることについて「シフト変更と考えた場合は多いですよね。」と証言している(H証言速記録(2)5頁)。

 
小括
 勇士の勤務は、1年半の間に合計13回もの頻繁なシフト変更がなされている。このような頻繁なシフト変更による不規則勤務は、生体リズムと生活リズムとの位相のずれを生じさせ、その修正の困難さから疲労がとれにくくなるため、疲労を蓄積させるものであって、過重性を有することは明らかである。

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