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立ちっぱなしの作業
さらに、クリーンルームでは、作業員は、基本的に立ちっぱなしで作業している。
ステッパーのコントロールを行うコンピュータは、そもそも立ってないと操作ができない。また、座るとクリーンウェアーに床の埃が付着するため、クリーンルームの床に座ることは機械への悪影響を与えるものとして禁止されていた。
F証人(※当時の同僚。ネクスター社員)も、書類を書くときは椅子に座ってもいいが、「リーダーから椅子は使用してはいけないというのを製造から注意されたということがありましたので、椅子は使用してはいけないことになっていました。」(F証言速記録7頁)、朝礼において「いすは使用しないでくださいというふうに私たち検査員はきいています。」(F証言速記録(2)41頁)と証言し、勤務時間中ほとんどの時間立ちっ放しであり、体が疲れる旨を証言する(F証言速記録8頁)。
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休憩
クリーンルームは、一度入室すると、休憩時間やその日の作業終了にならない限り、出ていくことは困難な環境にある。休憩室は、クリーンルームの外にあり、休憩室に行って再びクリーンルームに戻るためには、エアーカーテンを通って、ゴミを空気洗浄しなければならず、大変であり、休憩室は少し休憩するためだけに行くような場所には設置されていなかった。
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クリーンルームが精神衛生面に与える影響
このようにクリーンルーム内作業は、ウェアの不便さ、閉鎖圧迫感、立ち作業の多さ等から、作業者にとって肉体的・精神的に負担となるが、これらが精神衛生面に悪影響を及ぼすことは医学的にも明らかとなっている。
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中災防報告書
中央労働災害防止協会が作成した「クリーンルームの安全衛生管理」(甲113)は、クリーンルーム内の作業者への精神衛生学的影響について、
「クリーンルームは、その使用目的によって、一般の作業環境から隔絶された特殊な労働環境下におかれている。例えば、全く日常的な着衣についてみてもクリーンルーム作業者の着衣は、頭の先から足の裏まで下着を除く一切の衣類を無じん衣にすることが要求される。ことにICR関係では特殊な有害物質等を取り扱う機会も多く、そのための保護具着用の機会も多い。また室内作業者には、食事時、休憩時、用便時等といった生活的要求に対しても、他の職場の作業者と比較すると格段に多方面の規制、制限が厳しく課せられている。そしてその多くが単独作業であったり、少数の作業者相互間には、一般的な人間関係を阻害するいくつかの要因が潜在している。こうした作業環境下に長時間かつ長期間にわたっておかれる作業者への精神衛生学的影響には、個人の身体的、精神的条件ばかりでなく、クリーンルーム作業に起因する精神面への歪みについて慎重な管理的対応が必要である。
クリーンルーム作業の特殊性を考える時、作業者個人のパーソナリティ、知能、技能を背景として一つには、作業性からくるストレスの増大、人間疎外、非恒常性、没個性化、空間制限、時間拘束といった多彩な要因がある。また、精神・身体的側面としては、過緊張、仍圧感、孤独、不安、情緒不安定、行動抑制、強迫観念といった自律神経系への影響を含めた精神活動面への複雑な影響が顕在化する可能性がある。(中略)このためクリーンルーム作業者は、必然的に一般作業者とは異質な作業環境、作業形態、作業体制、職場人間関係等の条件におかれ、特異的な精神・心理状態を余儀なくされ易い。」と述べている(同63頁)。
また、同報告書は、クリーンルームを必要とする産業の実例の中で、クリーンルーム入室不適切者として、「重い神経症または閉所恐怖症の者」を掲げている(同80頁)。したがって、使用者は、うつ病などの精神疾患にり患している者はクリーンルームに入れるべきではなく、健康診断等により、入室者が精神疾患にり患しているか否かを十分に精査すべきである。
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産業医科大学報告書
産業医科大学報告書(甲70)は、深夜・交替制勤務労働者に対する配置転換事例の調査の結果、「精神神経疾患による配置転換事例を多く報告した事業場は、クリーンルーム内作業が主であった。クリーンルーム内作業は、ウェアの不便さ、立ち作業の多さ、閉鎖圧迫感などのクリーンルーム特有のストレッサーにより、ストレス反応を引き起こしやすいという報告が散見される。今回の精神神経症患事例の中にも、ストレス反応による事例も多く、クリーンルーム内作業との関連も考えられた。」と述べている(同72頁)。
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小括
以上のとおり、クリーンルーム内での作業が、通常の環境下での労働と比較してより一層肉体及び精神に負担をかけることは明らかである。
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