c 同年2月には、9日から11日まで、19日から21日までと3連続夜勤が2回あった。このうち19日に時間外労働が1時間30分付加された。
(イ)平成10年3月から6月まで
a 同年3月には2日から4日まで3日間連続の夜勤があり、2日、3日と連続して時間外労働があった。その後、10日から24日まで15日間の台湾出張を命じられた。この間、少なくとも、10日に9時間45分、11日に休日労働11時間、12日に9時間45分、13日に11時間15分(時間外労働1時間30分)、14日に9時間45分、16日に休日労働10時間、17日に休日労働12時間、18日に11時間15分(時間外労働1時間30分)、19日、20日、23日及び24日にそれぞれ9時間45分の労働時間があった。
b 同年4月には、2日から4日まで3日間連続の夜勤があり、23日から25日までにも3日間連続の夜勤があった。また、29日に10時間の休日労働があった。
c 同年5月には、8日、9日と連続夜勤があり、18日から20日まで、28日から30日までにそれぞれ3日間連続の夜勤があった。また、18日と29日に夜勤中の時間外労働がそれぞれ1時間30分ずつあった。
d 同年6月には、8日から10日まで、18日から20日まで、29日から同年7月1日までと、夜勤連続勤務が3回あり、18日及び20日にそれぞれ1時間30分の時間外労働もあった。昼勤時の時間外労働も多く、24日から26日まで連続長時間労働が続いた。
(ウ)平成10年7月
同月には、1日に同年6月29日から3日連続の夜勤を行った後、9日から11日まで3日連続の夜勤を行い(うち9日には1時間の時間外労働)、15日から18日までの昼勤を経て、中1日の休日の後、仙台に出張し(20日から同年8月4日まで)、20日から28日まで時間外労働・休日労働を伴う9日間連続勤務を行った。少なくとも、20日に9時間45分、21日に14時間45分(時間外労働5時間)、22日に15時間15分(時間外労働5時間30分)、23日及び24日にそれぞれ休日労働15時間30分、25日に休日労働14時間30分、26日に休日労働11時間、27日に13時間15分(時間外労働3時間30分)、28日に9時間45分の労働時間があった。
(エ)平成10年8月から平成11年1月まで
a 平成10年8月には、17日から19日までと27日から29日までとがそれぞ れ3日連続の夜勤となり、27日及び28日にそれぞれ1時間の時間外労働があった。また、1日から3ひまで、14日及び23日に休日出勤があり、5日、11日及び12日に昼勤時の時間外労働があった。
b 同年10月は昼勤のみであったが、同年11月には、9日から11日までと19日から21日までの3日連続の夜勤があり、21日に2時間の時間外労働が加わった。
c 同年12月には、2日から5日まで納入検査のため台湾出張を命じられ、3日及び4日は休日労働となった。そして、8日の昼勤務を経て、10日から12日まで3日間連続の夜勤を行い、10日に1時間の、11日及び12日に1時間30分の時間外労働がそれぞれ付加された。さらに、4日間の昼勤務を経て、21日から23日まで3日間連続の夜勤を行い、30日にも休日出勤となった。
d 平成11年1月には、5日に一審被告アテストの指示により引っ越しをした。9日から16日までの間に6日間、時間外労働があり、そのうち3回は3時間以上の時間外労働で、特に12日には4時間の時間外労働であった。
(オ)平成11年1月24日から同年2月7日まで
勇士は、同年1月24日から同年2月7日までソフト検査業務を命じられ、15日間連続で長時間労働をした。同年1月には、24日に休日労働6時間30分、25日に12時間15分(時間外労働3時間15分)、26日に9時間45分、27日に13時間15分(時間外労働3時間30分)、28日に休日労働10時間、29日に休日労働8時間、30日に休日労働14時間、31日に休日労働10時間30分の労働時間があった。また、同年2月には、1日に13時間15分(時間外労働3時間30分)、2日に11時間45分(時間外労働2時間)、3日に休日労働10時間30分、4日に9時間45分、5日に12時間45分(時間外労働3時間)、6日に13時間45分(時間外労働4時間)、7日に休日労働7時間の労働時間があった。
(カ)平成11年2月8日から同月25日まで
勇士は、同月7日までの15日間連続勤務の後、昼勤を4日行い、15日から17日まで3日間連続の夜勤をした。25日が最後の出勤となった。
特に、勇士は、新開発ステッパーのソフト検査のため、平成11年1月24日からその検査納期である同年2月7日まで、何らのサポートもなく、原判決別紙「勇士の15日連続勤務の労働時間」のとおり、15日間連続勤務をさせられ、その連続勤務においては、おおむね午前8時30分ころから業務を開始し、約13時間勤務し、うち3日間は翌日まで勤務を持ち越している。また、勇士は、自宅でも、検査マニュアルを熟読したり実施すべき検査手法の検討や問題点の解決等を行ったりしていた。
また、勇士は、納入検査のため、次のとおり出張したが、いずれも、厳しい納期を厳守して、顧客の指定する検査方法により、膨大な検査データを処理し、顧客に説明を行わなければならず、出張中は時間外労働が多くなり、非常にストレスがたまるものであった。
(ア) 台湾へ平成10年3月10日から同月24日まで
(イ) 仙台へ同年7月20日から同年8月4日まで
(ウ) 台湾へ同年12月2日から同月5日まで
イ 交替制勤務による弊害
勇士は、人間固有の「サーカディアンリズム」という24時間周期を持つ概日性リズムに反し、日勤と比較し、疲労しやすく、かつ、疲労が蓄積しやすいため様々な健康被害に陥りやすく、睡眠覚醒リズムに狂いを生じさせる交替制勤務に従事させられていた。その勤務の過重性については、多くの夜勤者・交替制勤務者の安全衛生に関する諸文献で指摘されているように、夜勤・交替制勤務による<1>生体リズムの位相逆転により諸生理機能の乱れが日常的に反復されること、<2>生体リズムの作用と環境刺激により睡眠の量・質が低下して睡眠不足となること、<3>食事時刻が不整となること等による慢性疲労状態が形成されることに照らせば、明らかである。
また、勇士は、次のとおり、約1年4か月の間に13回も交替制勤務と日勤との変更をさせられ、生体リズムと生活リズムとの位相のずれが生じ、その修正の困難さから、疲労を蓄積した。
回数
|
期間 |
勤務体系 |
\ |
平成9年10月27日から同年12月14日まで |
昼勤 |
1 |
同月15日から平成10年3月10日まで |
昼夜二交替 |
2 |
同月11日から同月25日まで |
昼勤 |
3 |
同月26日から同年4月12日まで |
昼夜二交替 |
4 |
同月13日から同月15日まで |
昼勤 |
5 |
同月16日から同年7月19日まで |
昼夜二交替 |
6 |
同月20日から同年8月16日まで |
昼勤 |
7 |
同月17日から同年9月16日まで |
昼夜二交替 |
8 |
同月17日から同年10月31日まで |
昼勤 |
9 |
同年11月1日から同月29日まで |
昼夜二交替 |
10 |
同月30日から同年12月8日まで |
昼勤 |
11 |
同月9日から同月30日まで |
昼夜二交替 |
12 |
平成11年1月8日から同年2月14日まで |
昼勤 |
13 |
同月15日から同月25日まで |
昼夜二交替 |
ウ ステッパー検査
勇士の従事していたステッパー検査自体も、次のとおり、精神的・肉体的負荷の大きい作業であった。
(ア) ステッパー検査は、ステッパー自体が大型精密機械であり、かつ、大量生産品というよりオーダーメイド製品であることから、画一的な単純作業ではなく顧客の要求に応じ、検査の前提条件や検査方法を検討しなければならない、常に新しい問題解決を必要とする複雑な作業であり、ステッパーの仕組みを理解するため、一定程度の技術的素養・知識が要求される専門性を要するものであった。特にソフト検査においては、1年以上の経験が要求され、一般検査以上の高度な知識が要求される精神的負荷の大きいものであった。そして、検査の待ち時間では、検査結果の計算、引継書の作成、検査チェックシートの記入等を行わなければならなかった。
さらに、その検査は付属パソコンに向かって行う作業であり、特にソフト検査においては電子メールの送受信を多く伴うものであり、いわゆるテクノストレスが大きい作業であった。
(イ) ステッパー生産には厳しい納期が定められているところ、その検査工程は、納入直前の工程であり、それ以前の工程でのスケジュール変更等によるしわ寄せを受ける工程であるといえ、ステッパー検査は納期厳守の精神的プレッシャーを最も受ける作業といえる。
エ クリーンルーム内作業による肉体的・精神的負荷
クリーンルームは、じんあいを最小限にするために窓が設けられていない閉鎖空間である。その入室には換気性が悪く、皮膚呼吸が圧迫され、着心地が極めて悪いクリーン着(防じん服)とマスク・ゴーグル・手袋を着用させられ、エアーシャワーを浴びなければならないという人工的な空間であって、日常的な空間と比較して、肉体的・精神的負担が大きい。さらに、そのクリーンルーム内の照明はウェハに塗られている感光剤が感光しないように黄色の単色光にされており、これが著しく人間を疲労させ、精神的ストレスを引き起こす。
また、クリーンルーム内では、基本的には立った状態で検査作業を行っていた。
さらに、クリーンルーム内には休憩室が存在せず、休憩の際にはいったんクリーン着(防じん服)を脱いでクリーンルームから退室し、再度、クリーンルームに入室するのにクリーン着(防じん服)を着用し、エアーカーテンを通らなければならなかった。
オ 引っ越し
勇士は、一審被告アテストの指示により、平成11年1月5日、同僚と同居していた従来の3DKの部屋(6畳間が3室)から、加熱に時間のかかる電熱器しかなく狭い4.5畳のワンルームマンションである本件居室への引っ越しをさせられた。
引っ越しによる疲れや環境の変化によるストレスがうつ病の原因となることは、医学上の定説である。この引っ越しは、一審被告アテストの都合によるものであり、勇士は指示どおり引っ越しせざるを得なかった。
カ 解雇
平成10年7、8月ころに熊谷製作所における一審被告アテストの同期入社の派遣労働者の大半が解雇されたことにより、派遣労働者である勇士の仕事量は増加した。さらに、その派遣労働者の削減により、勇士は、解雇の危険を感じ、より一層依頼された仕事を断れない心理状態に陥った。
キ 退職拒否
勇士は、一審被告アテストに対し、平成11年2月23日、退職を申し出たが、引き留められ、一審被告らは、勇士が自殺するまで、事実上勇士の退職申出を無視した。
ク 派遣労働者ゆえの身体的、精神的負担
(ア) 勇士は、一審被告アテストからの派遣労働者であり、一審被告ニコン従業員(正規従業員)と比べて身分保障がなく弱い立場にあり、いいたいこともいえず、一審被告ニコン従業員が引き受けないような嫌な仕事や時間外労働・休日出勤を余儀なくされ、また、健康管理のらち外に置かれることも多かった。
(イ) この点、一審被告らは、勇士が一審被告ニコンと一審被告アテストとの業務請負契約に基づき熊谷製作所配属の一審被告アテスト従業員としてその業務に従事していたと主張し、その派遣労働者性を否定している。
しかし、一審被告らの主張の業務請負契約は、成立しているとはいえない。なぜなら、その契約書たる乙第1号証(業務請負契約書)の署名欄に請負者たる一審被告アテストの記名押印がないし、また、その業務請負の委託料が仕事の完成ではなく、時間単位で算定されているからである。また、労働者を提供し、これを他人に使用させるものは、例え契約形式が請負であったとしても、<1>作業の完成について事業主として財政上・法律上のすべての責任を負い、<2>作業に従事する労働者を指揮監督し、<3>作業に従事する労働者に対し使用者として法律に規定されたすべての義務を負い、<4>自ら提供する機械、設備、機材若しくはその作業に必要な材料・資材を使用し、又は企画若しくは専門的な技術・経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないという4つの要件を満たさない限り、職業安定法施行規則4条により、労働者供給事業を行うものとされている。本件では、一審被告アテストが単独で作業の目的物たるステッパーの瑕疵を修補する能力はなく、そのステッパーの製作・検査につき法律上の義務を果たすことができないし、その検査に必要なパソコン、検査工具、作業着及びクリーン着(防じん服)は一審被告ニコンからの無償貸与によるものであるから、一審被告アテストが財政上すべての責任を負っているとはいえない。また、一審被告アテストは、熊谷製作所に勤務する一審被告アテスト従業員に対し個別具体的な作業指示を行っておらず、熊谷製作所に常駐する監督員も配置していなかったなど、上の4つの要件を満たしているとはいえない。一審被告アテストは、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)を潜脱して労働者供給事業を行っていたといえ、一審被告ニコンは、本来ならば派遣先として負担すべき同法上の義務を免れていたというべきである。
(3)また、次の事情に照らせば、勇士がうつ病を発症し自殺に至ったことが明らかである。
ア 勇士は、一審被告アテストに入社し、交替制勤務に就いて間もなく、入眠困難、胃腸障害に陥った。
イ 勇士は、平成10年5月から、入眠困難・胃腸障害に加え、ひどい疲労感にも襲われ、同年6月から同年7月にかけて、体重が減少していった。
ウ 勇士は、同年8月から、不安・緊張、イライラ感・内的焦燥、快楽行動の消失といった精神面での変調を来し、同年9月から同年10月にかけてそれを増強させ、慢性疲労状態・過労状態が継続した。
エ 勇士は、同年11月には、世界保健機関(WHO)が作成した国際疾病分類第10回修正(以下「ICD-10」という。)におけるF32.0「軽症うつ病エピソード」の診断基準に合致するうつ病を発症した。すなわち、勇士は、同時期、この診断基準において、2週間以上続くエピソード、躁病性症状がない、薬物依存や器質性精神障害がない、快楽感情・快楽行動への興味の喪失、活力減退・疲労感の増加、思考力低下、焦燥・精神運動遅滞及び体重変化を伴う食欲変化という基準を満たしていた。
オ 勇士は、同年12月から平成11年1月にかけて、既に主張した引っ越しをさせられたこと、ソフト検査の15日間連続の長時間労働に従事させられたことにより、うつ病を憎悪させた。
カ 勇士は、同年2月にはICD-10におけるF32.1「中等症うつ病エピソード」に至った。すなわち、勇士は、同時期、抑うつ気分の2週間の持続及び睡眠障害にも陥り、希死念慮も抱くようになった。
(4) 勇士がうつ病を発症したことは、一審原告本人の供述や陳述及びT.T医師の意見書以外にも、次の諸点から推認することが可能である。
ア 自殺者の90%がうつ病などの精神障害にり患しているとの医学的知見がある。
我が国の自殺研究の第一人者である高橋祥友医師(防衛医科大学教授)は、その著作「自殺のリスクマネジメント」(甲147)において、自殺者が生前に気分障害(主として、うつ病)に掛かっていた例が圧倒的に多い。既遂自殺者の中で精神障害の診断に該当しない人は、約1割程度でしかないという事実に注目してほしい、約9割は、自殺という最期の行動に及ぶ前に何らかの精神障害に掛かっていたのであると指摘している。さらに同医師は、自殺を図る前にこれほど多くの人々が精神的な問題を抱えていたにもかかわらず、精神科治療を受けていた人はせいぜい2割程度であったというのも各種の調査で共通している、しばしば「覚悟の自殺」、「理性的な自殺」が議論されるが、実際には自殺の背後には、このように精神障害が極めて高率に潜んでいることをぜひ認識してほしいと指摘している。
大熊輝雄編「躁うつ病の臨床と理論」(甲59)では、実際的な経験からいえ
ることは、ほとんどの場合自殺者は精神的に病的な状態に置かれているとのRingel,E.の指摘が肯定的に引用され、自殺における精神障害の占める比率が100%、99%、97%等の研究者の資料が紹介されている。
また、厚生労働省も、自殺が起きる背景には、うつ病などの心の病が隠れていることが圧倒的に多いと指摘している(甲182)。
イ 勇士の従事した労働は睡眠障害・うつ病が発症しやすい深夜・交替制勤務であった。
深夜・交替制勤務労働者に精神神経疾患が多数発生している事実が指摘されている(甲70)。また、「精神疾患発症と長時間残業との因果関係に関する調査」(甲108の2)は、「交代勤務に伴う睡眠障害や睡眠不足がうつ病の直接リスクとなりうる可能性も高いことが考えられた」と指摘している。「(株)ニコン熊谷製作所交替勤務の導入にあたり」(乙13)でも、夜間勤務が生体リズムの狂いをもたらすものであることが強調されている。
ウ 勇士の従事した労働は精神疾患が発症しやすいクリーンルーム内作業であった。
平成10年度労働省委託研究報告書(甲32)は、企業専属産業医からのアンケート調査を基にして、精神神経疾患による配置転換事例を多く報告した事業場は、クリーンルーム内作業が主であった。 |