『控訴審・判決全文』




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〜目次〜
※(判決 1〜10頁)
判決 主文
事実及び理由
第1
申立の趣旨
一審原告の控訴
一審原告の当審における追加的請求
一審被告ニコンの控訴
一審被告アテストの控訴
第2
原判決(主文)の表示
第3
事案の概要
第4
争点及びこれに関する当事者の主張
業務と死亡との間の因果関係の有無(争点1)
(一審原告)
(1) 相当因果関係
(2) うつ病を発症する程度に過重
ア 勇士の勤務時間、勤務形態等
※(判決 11〜20頁)
ア(続き)
イ 交替制勤務による弊害
ウ ステッパー検査
エ クリーンルーム内作業による肉体的・精神的負荷
オ 引っ越し
カ 解雇 / キ 退職拒否 / ク 派遣労働者ゆえの身体的、精神的負担
(3) うつ病を発症し自殺に至ったことが明らか
(4) 一審原告本人の供述や陳述及びT.T医師の意見書以外にも、・・推認することが可能
※(判決 20頁・後2行〜30頁)
(5)判断指針、その他の医学的知見も十分に考慮
(6)脳・心臓疾患の労災認定基準
  平成15年度委託研究報告書
(7)日本産業衛生学会「夜勤・交替制勤務に関する意見書」ア〜シ
  ILO「夜業に関する勧告」ア〜ウ
(8)ニコン提出 調査時報(電機連合)
(9)業務以外の要因は存しない ア〜ウ
(一審被告ら)
(一審被告ニコン)
(1)業務を掛け持ちしていたことはない
(2)労働の過重性を判断するには ア〜ウ
※(判決 31〜40頁)
エ クリーンルーム内での就労
オ 従事した業務の内容
カ 出張
キ 解雇の不安
(3)うつ病を発症していたとは認められない ア〜カ
(4)大学を中退 両親の離婚 性格の変容 ア〜キ
(5)一審原告の陳述及び供述 事実認定の基礎とすることができない ア〜オ
(一審被告アテスト)
(1) 自殺を誘発する原因
(2) 精神障害の発症前6か月間 心理的負荷判断対象 ア〜ウ
※(判決 40頁・後7行〜50頁)
エ 解雇の不安  オ 出張 カ 時間外労働及び休日労働
(3) うつ病を発症 極めて疑わしい  / ア〜イ
(4) 中退したのは 経済的困窮に起因  / ア〜エ
    オ 奨学金 借金取りから身を隠す 発症は私的な事情
(5) 医証なし 一審原告の供述及び陳述のみ  / ア〜キ
一審被告ら又はその被用者の注意義務違反・安全配慮義務違反の有無(争点2)
(一審原告)
(1) 一審被告ニコンの被用者の注意義務違反
ア 一審被告ニコン 第二品質保証課マネジャー ST
           同課成検係チーフ KK
イ 夜勤・交替制勤務  / ウ〜サ
(2) 一審被告アテストの被用者の注意義務違反
ア 一審被告アテスト 熊谷営業所所長 SH (H9.10月〜)
            熊谷営業所所長 SN (H10.12/11以降、担当)
イ 夜勤・交替制勤務 36協定に反した 放置  / ウ〜ケ
(3) 一審被告らそれぞれの注意義務違反
※(判決 50頁・後5行〜60頁)
(4) 一審被告ニコンの安全配慮義務違反
(5) 一審被告アテストの安全配慮義務違反
(6) 一審被告らの予見可能性及び結果回避可能性
ア 客観的兆候
イ 安全性に疑念を抱かせる抽象的危ぐ
ウ 労働実態を改善する措置
エ ニコンに対し 働き掛けるなどの措置
(7) 一審被告らの責任の関係
(一審被告ニコン)
(1)ア 熊谷製作所 安全衛生管理
イ 請負作業者に 定期健康診断実施
ウ 部下の健康状態に留意 / エ 無断欠勤の措置
(2) 不法行為構成でも債務不履行構成でも 過失責任に変わりはなく
ア 労働の過重性の軽重
イ 前提としての結果回避義務違反
※(判決 60頁・後6行〜70頁)
(3)法人自体に民法709条の適用はないというべき
(一審被告アテスト)
(1)勇士の労務管理 / (2)使用者の予見可能性 
(3)債務不履行構成に基づく予備的請求
損害額(争点3)
(一審原告)
(1)葬儀関係費用 150万円 / (2)逸失利益 1億0021万3904円
(3)死亡慰謝料 3000万円 / (4)弁護士費用 1314万1390円
(一審被告ニコン)
(1)葬儀費用 45万8565円 / (2)逸失利益の基礎収入 年収441万6132円
(一審被告アテスト)
(1)葬儀費用 41万4985円 / (2)逸失利益の基礎収入 高専・短大卒男子
責任の阻却、過失相殺、いわゆる素因減額等の当否(争点4)
消滅時効の成否
※(判決 70頁・後2行〜80頁)
(一審原告)民法724条の「損害及び加害者を知った時」
第5
当裁判所の判断
次の事実が認められる
(1)ア〜ウ 勇士の出生 小中学校 高専 大学
(2)イ 熊谷製作所内にアテスト独自の事業所は存在せず / ウ 就業規則
  エ (丙1)業務請負業 「(株)ネクスター(株)ニコン内事業所」
  オ 勇士が就業する場合(入場の操作) / カ 健康診断
(3)ア 就業週報 
平成9年12月、15日から 昼夜交替制
※(判決 80頁・後21行〜90頁)
イ 平成10年1月 / ウ 平成10年2月 / エ 平成10年3月
オ 平成10年4月 / カ 平成10年5月 / キ 平成10年6月
ク 平成10年7月 / ケ 平成10年8月 / コ 平成10年9月
サ 平成10年10月 / シ 平成10年11月
※(判決90頁・後1行〜100頁)
ス 平成10年12月
セ 平成11年1月 / 引っ越し 開発中のARXB機 ソフト検査の業務
              データ取りだけ、との供述は信用できない
ソ 平成12年2月 / 1月に続きARXB機 ソフト検査
(4)ア 勇士が担当したステッパーの一般検査やソフト検査
(ア) 社内検査とは / (イ)納入検査 顧客先に出張 / (ウ)ソフト検査
イ 勇士が作業していたクリーンルーム / (ア)〜(カ)
ウ 勇士は休憩時間にもクリーンルーム内にいたことがあった
(5) 勇士が就労した期間の交替制勤務
(6)ア KK(成検係チーフ)とST(第二品質保証課マネジャー)
イ アテスト労務管理者 SH(平成10年12月10日まで)とSN 
(7)ア〜ウ 平成11年2月24日から死亡の日
※(判決100頁・後1行〜110頁)
(7)ア〜ウ 辞めたいとの申出 欠勤 死亡
エ 本件居室からマニュアルや社内検査の記録
(8)ア「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」
イ 心理学的剖検 ウ 自殺既遂者の調査
(9)ア 気分(感情)障害について (ア)〜(オ)
イ 自殺企図 ウ うつ病の初期や軽症 エ 職場におけるメンタルヘルス対策」オ 「軽症うつ病―「ゆううつ」の精神病理」 
(10)ア 「夜勤・交代制勤務に関する意見書」 (ア)〜(ウ)
イ 文献 「勤務時間制・交代制」によれば (ア)〜(キ)
ウ 産業医科大学 「深夜業の健康影響に関する調査研究」
中央労働災害防止協会 「クリーンルームの安全衛生管理」
※(判決110頁・後1行〜120頁)

エ 「工場労働者の精神状態に対する交替制勤務の影響」
オ 「ストレス評価表の充実強化に関する研究」
カ 「精神疾患発症と長時間残業との因果関係に関する研究」
(ア) 睡眠不足及び睡眠障害と精神疾患との関係
(イ) 〜(エ)
(11) 判断指針は、次のような内容を含むもの
ア 基本的考え方 イ 対象疾病 ウ 判断要件 エ 判断要件の運用
(ア) 精神障害の判断等
a ICD-10診断ガイドライン b 業務に関連して発病する精神障害
(イ) 業務による心理的負荷の強度の評価
a 出来事の心理的負荷の評価

※(判決120頁・後3行〜130頁)

b 出来事に伴う変化等による心理的負荷の評価
c 業務による心理的負荷の強度の総合評価 
d 特別な出来事等の総合評価
(ウ) 業務以外の心理的負荷の強度の評価
(エ) 個体側要因の検討
オ 治ゆ等
カ 自殺の取扱い (ア)精神障害による自殺 (イ)遺書等の取扱い

一審原告の陳述及び原審供述等の信用性について
  ほとんどに客観的な裏付けが見当たらない / 供述を変遷させた /メモあるいはノートが証拠保全の申立ての疎明資料とされていない、極めて不審 /
一審原告は勇士の状況について把握していなかった疑いが強い
勇士の自殺はうつ病によるものか否かについて
(1)〜(3)
当該労働者の生活の大部分 使用する者に抱え込まれている
※(判決130頁・後2行〜140頁)

一審被告らが精神疾患によるものではないことを明らかにしない限り、うつ病で自殺するに至ったと推認される
(4) うつ病の発症がないか 覚悟の自殺、理性的な自殺か
ア ニコンの主張 TM.Tの意見書 / アテストの主張 / 勇士の預金通帳 
証人OW 勇士は仕送りをしていた / 陳述書KG.K 勇士が「お金に困っている」 / 伝聞TU.H「実家に借金がある」 /
TM.Tの意見書は採用できない。一審被告らの主張はいずれも失当
イ ニコンの主張 勇士の退勤は極めて良好、うつ病ではない。悪化の申出なく、家族の認識もなし。
初期や軽症は通常の仕事をこなす。認めるべき証拠はない。主張は失当である。
ウ 医証のないことについて
エ 勇士は食欲不振に陥っていなかったという主張
オ うつ病を発症し自殺するに至ったと推認される

4 うつ病発症が業務に起因するか否か
(1)(2)労働者派遣法 勇士は派遣労働者に当たる / 公共職業安定所から改善指導 / アテストは労働者派遣法4条3項違反 ニコンは同条4項違反

※(判決140頁・後6行〜150頁)

(3) 熊谷製作所における就労について指摘
ア 労働基準法32条の2の規定 勇士に適用があると解することはできない
  36協定の成立自体 認められない
  一審被告ら間の契約は法令による規律をおよそ度外視
イ 勇士のタイムカード等が存する可能性が高い
   本件週報はアテストへの給付額資料の可能性 記載は留保付きのもの
   業務の準備行為 使用者の指揮命令下と評価することができる
   休憩時も作業従事の可能性
ウ 本件居室から発見された資料 持ち帰り、恒常的に検討した可能性
エ 10回にわたるシフト変更
   業務遂行の都合から命じられた可能性 相当な心理的負荷
   夜勤頻度が減っていたから問題ない、の主張は失当
   台湾出張 本来業務ではない業務 大きな負担
オ 一般検査とソフト検査を兼務で担当 疑いが極めて強い
   ソフト検査が実習であったというには相当な疑いがある
   心理的負荷を蓄積させた疑い
   証人OW、KK、供述及び陳述 採用できない

※(判決150頁・後7行〜160頁)

(4) 労働者派遣法について
  憲法18条、27条1項及び2項、労働基準法 1条1項、5条
  労働者派遣法と職業安定法
  経済活動規制立法と経済的自由権
  立法府と裁判所の役割分担
  派遣労働者は不安定な立場 中間さく取 過酷な労働が強制・・など労働者に不当な圧迫が加えられるおそれが類型的に高い
(5) 交替制勤務によりクリーンルーム作業に従事
  寮に単身で居住 生活の大部分は使用する者によって抱え込まれている
  外部者らが明らかにすることはほとんど不可能に等しい
うつ病発症が業務に起因するものとはいえないことを使用者たる被告の側で明らかにしない限り、業務に起因と推認されるのが訴訟上、公平
業務による過重な心理的負荷等によってうつ病が発症したことについて合理的な根拠に基づく相当な疑いがあることは明らか
(6) うつ病発症は業務以外として一審被告らが争っている点の検討
ア HS.Tの意見書(乙106) 気分変調症 / 判断の前提事実は多分に推察
   勇士が以前から気分変調症を発症していたとは認められない。
イ ニコンの主張とHS.Tの陳述書(乙67,122)及び意見書(乙106)
   TM.Tの意見書(乙107)と供述
   熊谷製作所 OWの陳述書(乙55)、MTの陳述書(乙65)、NK.Mの陳述書(乙79)、HG.K(乙81)、HR.Iの陳述書(乙87)、SM.Kの陳述書(乙98)、IK.Y、YG.K、IR.K
HS.Tの陳述書及び意見書、TM.Tの意見書並びに当審証人TMの供述中の上記部分はいずれも採用することができない。
  勇士が受験勉強や肉体の鍛錬のために費やした時間がどの程度であるかを具体的に認定できる証拠もない。

※(判決160頁・後6行〜170頁)

勇士の第二種電験、受験勉強等がうつ病を発症させたとは認められない。
ウ 精神疾患発症前の約6か月間を基準とすべき、問題は恒常的な長時間労働であるというニコンの主張について。
 KKの陳述書(乙49)。KZ.Oの意見書(乙99)。HS.T、HN.M、TH.H、OWの陳述書。
 ニコンが主張のよりどころとする東大教授原田医師は、6ヵ月から1年間が普通としている。
 合計睡眠時間の見掛けの長さは、交替制勤務負荷を相殺できない。
 2週間の長時間労働は問題にならない、は合理的根拠があると認めるに足りる証拠はない。
 勤務シフトの変更は夜勤頻度が減ったのだから問題ないとする点
 継続的に相当な心理的負荷、到底問題ないとはいえず失当
 熊谷製作所の交替制勤務は、労組と協議し、日本電機工業会、通信工業連盟及び電機連合の三者による企画委員会を経たガイドラインを配慮し作成されたという点について
 クリーンルーム内の輝度と疲労、休憩、仮眠、特有のストレッサー、業務の密度
HS.Tの陳述書、クリーンルームについて、採用することはできない。
(7)結局のところ、主張はいずれも認められない。判断指針の基準で検討。
ア 精神疾患の判断は、遅くとも平成11年2月中旬ころまでにはうつ病が発症

※(判決170頁・後5行〜180頁) 

イ 出来事に伴う仕事量の変化等が、どの程度持続、拡大あるいは改善したか
  業務の心理的負荷の強度の総合評価は「強」である
ウ 住環境の変化
  引っ越しは、アテストの求めに応じたもので、業務以外の心理的負荷とは認められない
エ 判断指針の基準により、うつ病発症、自殺は業務起因性が認められる
(8) うつ病発症は業務に起因するものであることが推認される

一審被告ニコンの被用者の注意義務違反の有無
(1)KKが就業過程に過重な労働を認識していたか、認識し得たことは明らか
(2)使用者に代わり労働者に指揮監督を行う権限を有する者
(3)KKは検査グループリーダーの指示を漫然と承認、過重労働を放置
(4)一見明らかに過重な場合ではないとする主張は、失当
  注意義務違反を認めるには、結果回避義務違反が必要とする主張は失当。
(5)KKに不法行為の成立を認める

一審被告アテストの注意義務違反の有無
(1)交渉等の実務、SHとSNは、就業状況を把握していなかったと推認
  その労務管理がアテスト自体の事業活動であり、アテストの行為である
(2)労働者派遣事業。適正な配慮を義務付けていること(同法31条)は注意義務を前提。同法28条は受役務者が違反した場合、労働者派遣を停止することを認めている
(3)一審被告アテストは勇士の就業状況を常に把握することは可能であった

※(判決180頁・後4行〜194頁・最終)  up

一審被告アテストには注意義務違反の過失が認められる
(4) 過重な業務等に対する認識可能性があれば、予見可能性を認めることができる

一審被告らの責任について
一審被告ニコンの被用者であるKKがニコンの事業の執行について勇士に損害を加え、一審被告ニコンはその使用者として損害を賠償する責任を負う。
一審被告アテストには、勇士の死亡について不法行為が成立、損害を賠償する責任を負う。
一審被告らの責任は不真正連帯の関係

損害額について
(1)逸失利益 4338万9305円 ライプニッツ方式 年5%の利息
高専・短大卒の男性労働者の平均賃金
(2)勇士の慰謝料 2000万円(近親者の精神的苦痛の点も考慮されている)
(3)葬儀関係費用 120万円

責任の阻却、過失相殺、素因減額等の当否について
(1)責任の阻却について
勇士の自己保健義務(労働契約上の義務として。ニコンの主張)はニコンとの間に労働契約なし、前提を欠き失当。
(2)過失相殺について
アテストの主張(金銭・受験)は失当。
(3)素因減額について
ストレスぜい弱性・一見して過重な業務が存在しない(アテストの主張)は、失当である。
(4)信義則違反又は証明妨害による責任の否定又は減軽について

10

消滅時効の成否について
(1)消滅時効の成立を主張、検討
(2)消滅時効の起算点

11

弁護士費用相当損害等について

12

まとめ

第6
結論
  ※控訴審『判決』書は、A4版191枚と、「職場における心理的負荷評価表」3枚綴込みの、計194頁にわたる書面でした。一審を追認し、さらに詳細な検討を積み重ねていただきました。大変感謝しつつHP掲載作業を終えました。当判決の確定を心から願っております。(平成21年9月24日)